注目キーワード
  1. 新薬
  2. MR
  3. 抗体
  4. AMP
  5. 水族館

0からわかるCRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン):part2【遺伝子修復とゲノム編集】

遺伝子修復とゲノム編集

遺伝子修復とゲノム編集

0から理解するクリスパーキャス9【用語,役割とメカニズム解説】では原核生物の免疫システムとしてのCRISPR−Casを紹介しました。

本稿ではゲノム編集への応用を紹介していきます。

 
なお前回同様、当記事は「CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見」ならびに「ゲノム編集の基本原理と応用」、「休み時間の分子生物学」を参考に作成しています。

遺伝子編集への応用

CRISPR-Cas9の作用がある程度解き明かされた時、ジェニファー・ダウドナ教授たちはあることを考えます。

 
ジェニファー・ダウドナ教授
あれ?これゲノム編集に応用可能じゃね?

ターゲットがDNAならばファージゲノムに拘らず他の生物のDNAでも切断できるんじゃないか…その疑問は的を得ており、CRISPR-Cas9は全く問題なくファージ以外のDNAでも切断します。

CRISPR−Cas9はsgRNAさえ組み換えればほぼ全ての生物のDNAを切断できるシステムだったんです。

更にRNA自体の制作はこれまで遺伝子編集で使われていたタンパク質よりも遥かに簡単。(と言うよりもタンパク質作成が高コスト高難易度)

そして作成が面倒なCas9タンパクは使い回しが可能でコストが抑えられるといいことだらけの技術でした。

 
でも切断するだけの技術がゲノム編集に繋がるのは何で?
 
そう言う疑問は当然だよね。そこには遺伝子修復が深く関わっているよ。

遺伝子修復

遺伝子修復

私たちの体は約40兆の細胞で構成されています。そのため、核内に保存されているDNAの数も膨大な数になります。これだけ多いと何らかの理由で壊れるDNAもすごい数が出てきます。

人体は日光の紫外線や酸化ストレス等の影響によって、1秒間に1つDNAが破壊されていると言われています。1日あたり86,400のDNAが壊れている計算です。

教科書によっては、1日1細胞当たり、1万から100万箇所の頻度でDNAは損傷を受けているとも言われます。

とにかくとんでもない量が壊れています。

当然このままではいけないので、生き物の細胞にはDNAを高速で修復するシステムが備わっています。

ヌクレオチド除去修復・塩基除去修復

DNA2本鎖のうち片方が壊れた場合は

  1. 破壊された部分がDNA分解酵素(ヌクレアーゼ)で除去される。
  2. もう片方の鎖を参考にDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)によってDNAが合成される。
  3. 切断部位と新しいDNAを酵素(DNAリガーゼ)が繋ぐ

と言うステップを踏みます。壊れた塩基が1つの時は塩基除去修復、ごっそり広範囲の塩基が壊れた時はヌクレオチド除去修復が行われます。

どちらも同様に壊れた部分を除去して、無事な片鎖を鋳型の正常な配列を再構成します。

DNA2本鎖のうち両方がいっぺんに壊れることって実は少なくて、多くの場合は片方が壊れます。つまりDNA修復の多くはこの方法が取られています。2本鎖のDNAが1本鎖のRNAより遺伝情報の保存に向いている理由だったりします。

それでも低い確率で両方同時に破壊される場合もあります。これはかなりの緊急事態です。両方破壊された場合はどうなるのでしょうか。

DNA2本鎖のうち両方が壊れた場合の修復方法は、参考となるDNAの有無によって2方法に別れます。

非相同末端結合

一つ目がDNA2本鎖のうち両方が壊れ、近くに参考となるDNAがない場合です。この場合は壊れた部分を捨てて取り敢えず繋ぎます。破壊部分をヌクレアーゼが処理し、リガーゼが繋ぐだけの簡単な処理が施されます。

ちなみに非相同末端結合と言います。

このプロセスは結構適当かつ乱雑な方法です。壊れた部位を捨てるためその部分に欠損が生じますし、全く別の配列が挿入されることもあります。

 
申し訳程度に取り敢えず繋ぐ方法ね

相同組み替え修復

二つ目がDNA2本鎖のうち両方が壊れ、近くに参考となるDNAがある場合です。前述の方法と比べてこちらの方法は非常にエレガントです。

この方法は参考となるDNAを紐解いて活用します。欠損した部分を参考DNAから探し出し、更に参考DNAを鋳型に正しい配列を作成し修復します。この方法を相同組み替え修復と言います。

口頭だけだと分かりにくいかと思いますので動画を見つけてきました。神動画だと思います。

英語動画ですが、日本語字幕も設定できます。歯車マークをクリックして字幕を入れてご確認ください。3分くらいから見ると丁度、ここまで紹介した内容になっています。

https://www.youtube.com/watch?v=vP8-5Bhd2ag&feature=emb_title

ゲノム編集

察しのいい方はお気づきかもしれませんが、CRISPR-Cas9はDNAの両鎖を切断します。したがって非相同末端結合と、相同組み替えのどちらかが行われます。

そしてこれを応用してゲノム編集を行うのです。

ノックアウト

まずはノックアウトです。Knock OutつまりはKOです。ボクシングとかで相手をやっつけた時に使う言葉として馴染みがありますよね。

ノックアウトは言葉の通り、遺伝子をKOして正常に働けない様にします。

遺伝情報は精密な暗号なので、通常は全く働かなくなります。この方法がCRISPR-Cas9で最も簡単に行える遺伝子編集です。

非相同末端結合を利用し遺伝子をノックアウトします。

  1. KOしたいDNA配列と相補的なsgRNAを作成。
  2. sgRNAとCas9を細胞に導入。
  3. 目的のDNAが切断。
  4. 非相同末端結合が実施。
  5. 元どおり綺麗に修復される場合もありますが、即座にCas9が再切断します。
  6. 最終的に切断部が欠損、または短い間違った配列が挿入されて修復されます。
  7. 欠損や挿入によりDNAが機能欠損。
非相同末端結合

この技術を使えば、目的の遺伝子を不可逆的に止めることができるので、メラニン色素を生成するDNAをKOしアルビノを作るといったことが簡単にできます。

遺伝子挿入

続いて遺伝子挿入です。切断した部分に別の遺伝子を挿入して新たな機能を持たせます。これには相同組み替えを活用します。

CRISPR-Casによる切断は切断された後の両側の配列を正確に予想することが可能です。(PAM配列:protospacer adjacent motifと言う決まった配列の3つ隣の塩基を切断するため)

それでは相同組み替えを使った遺伝子挿入を確認します。

まず便宜上、切断された左側をL配列、右側をR配列とします。

  1. 切断する前に『L配列−挿入目的遺伝子−R配列』というDNAを人工的に合成。
  2. 次にCas9を使ってDNAを切断します。
  3. 切断されたL配列とR配列の側に『L配列−挿入目的遺伝子−R配列』を添えます。
  4. 細胞は『L配列−挿入目的遺伝子−R配列』が正しい配列だと勘違いし、相同組み替えを発動します。
  5. 修復されたR配列とL配列の間には挿入目的遺伝子が入ります。
相同組み替えを使った遺伝子挿入

オフターゲット効果問題

かなり神ががっているCRISPR-Cas9を用いたゲノム編集ですが、少ないですが課題もあります。

その中で最も大きいものがオフターゲット効果です。目的外の遺伝子を編集してしまうことが少なからずあります。

Cas9に使われるcr RNAの長さが20塩基程度と短く、狙った部位以外で偶然の一致を起こしてしまう場合に起こってしまいます。

また厄介なことに数塩基の違いならば許容してCas9が発動して切断してしまうこともわかっています。

少々編集しすぎるのがCRISPR-Cas9の欠点です。編集のしすぎが予期せぬ副作用やがん化を生んでしまうリスクを孕んでいます。

しかしながら科学者はすごいもので、対応策も現れています。

別々の片方の鎖を切断する様に改良したCasを使って2ヵ所同時に切断された時のみ組み替えが起こるダブルニッキング法(2ヵ所の塩基配列が同じになる可能性は低い、かつ同時に発動しないと切断されないためオフターゲットが起こりにくい)

逆転の発想でCasの切断能力を失わせ遺伝子への接着能力のみを持たせたCRISPR-GNDM

これら等の新しい技術によって、オフターゲット効果も克服しつつあります。

 
他にもオフターゲットを減らすための技術が日夜開発されているそうです。

まとめ

遺伝子の修復方法とそれを用いたCRISPR-Cas9の遺伝子編集方法の基本を紹介しました。

今回で基本的な解説は終了です。次回はどの様に応用が検討されているのか、創薬時の課題等について紹介していきます。

0からわかるCRISPR−Cas9シリーズ記事

参考図書