目次
ポイント
- 成人の辺縁帯リンパ腫(MZL)に対し、Breyanzi(Lisocabtagene maraleucel)がCAR-Tとして米国初承認
- 標準治療が効かない、または再発した患者で、2ライン以上の治療歴を持つ人が対象
- 1回きりの点滴で、約96%が効果あり、約62%が画像上がんが消えたと評価
- 効果は中央値21.6カ月追跡時点でも持続
- 副作用としてサイトカイン放出症候群(CRS)や下痢、疲れやすさ、筋肉痛、頭痛などに注意
- 希少疾患向けの「優先審査」「オーファンドラッグ指定」を受けて迅速に審査
詳細
米FDAは、成人の辺縁帯リンパ腫(MZL)患者を対象に、Breyanzi(Lisocabtagene maraleucel)を新たに承認しました。
MZLはゆっくり進行するタイプのB細胞リンパ腫で、全B細胞性非ホジキンリンパ腫の約7%を占める比較的まれながんです。米国では毎年約7,460人が新たに診断されています。
今回の承認対象は、
- 少なくとも2種類以上の全身治療を受けても効果が不十分だった人
- 造血幹細胞移植後に再発した人
といった、いわゆる「難治・再発」の患者さんです。
FDAは、「患者さん自身の免疫をがんと戦う“道具”に作り替える、精密医療の大きな前進」とコメントしています。また、1回の治療で高い、かつ長く続く効果が見られた点を重視したとしています。
Breyanziの仕組み(CAR-T)
Breyanziは「CAR-T細胞療法」と呼ばれる治療です。
- まず、患者さん自身のT細胞(免疫細胞の一種)を採血で取り出す
- そのT細胞に、「がん細胞の目印(多くはB細胞リンパ腫の表面にあるCD19)」を認識するアンテナ(CAR)を遺伝子操作で付ける
- 増やしたCAR-T細胞を、点滴で体内に戻す
- 戻されたCAR-T細胞が、目印を頼りにがん細胞を探し出し、攻撃する
つまり「自分の免疫細胞を、がん専門のハンターに育てて戻す」ようなイメージの治療です。
今回の試験では、その投与は原則1回のみで行われています。
試験結果(再発・難治MZL)
対象
- 再発または難治のMZL成人患者
- ・少なくとも2ライン以上の全身治療歴、または造血幹細胞移植後に再発
治療の流れ
- 77人がT細胞採取(ロイカフェレーシス)を実施
- 前処置としてリンパ球を減らす化学療法を実施
- その後2~7日以内に、Breyanziを1回点滴投与
- 66人が予定どおりBreyanziを受けた
主な成績(66人が評価対象)
- 奏効率: 95.5%
- 完全奏効:62.1%
- 追跡期間中央値:21.6カ月時点でも効果は持続
※95%信頼区間などは、今回のプレスリリースでは公表されていません。
安全性・注意点
よくみられた副作用
- サイトカイン放出症候群(CRS)→ 発熱や血圧低下などを起こしうる免疫の「強い反応」
- 下痢
- だるさ(疲労)
- 筋肉や関節の痛み
- 頭痛
詳細な使用条件や注意事項は、Breyanziの添付文書で確認する必要があります。
制度面のポイント
- Priority Review(優先審査)→ 重い病気で有望な治療薬について、審査を早める仕組み
- Orphan Drug指定(希少疾患用医薬品)→ 患者数が少なく開発が進みにくい病気の薬に対し、税制優遇や独占販売期間などを付与して開発を後押しする制度
今回、Breyanziはこれら2つの指定を受けたことで、MZLという希少がん領域での新しい治療選択肢として、比較的早く患者さんのもとに届く道が開かれた形です。
参考情報
FDA Approves First CAR T-Cell Therapy for Marginal Zone Lymphoma In the US(2025年12月4日付)
