T細胞の教育を解説。恐怖のセレクション機関、胸腺学校とは?

はじめに

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新型コロナウイルスは峠をこえたような気がする今日この頃ですが、これから数回に分けて感染症と戦う免疫細胞の紹介をしていきたいと考えています。

最初に中心となるT細胞群に関して紹介しようと考えたのですが総論を紹介するよりも先に、T細胞の過酷な出生を紹介させていただきます。

この話題でT細胞に同情して免疫細胞たちに親近感をもっていただけば幸いです。

T細胞の簡単な紹介

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まずT細胞のTってなんだって話ですが、

これは

胸腺(Thymus)の頭文字

を表しています。

T細胞は骨髄で生まれた後、胸腺で教育を受けます。その胸腺の頭文字をとってT細胞と呼ばれています。

名前についちゃうくらいT細胞にとって胸腺は重要な場所です。彼らの起源と言える場所です。

余談ですが胸腺におけるT細胞の新たな産生は一定の年齢から減少に転じ60歳くらいでほぼ行われなくなるそうです。それ以降はそれまでに鍛えられたT細胞をクローニングすることで対応します

高齢者が新たな感染症に弱いのは生理機能が落ちていることと合わせてこんなところにも原因があるのかもしれません。

T細胞は胸腺学校に入学して立派なT細胞になることをを目指します。なんだか楽しそうです。過酷な宿命なんてどこに?といった感じです。

無事に、この学校を卒業した新米T細胞(ナイーブT細胞)たちは感染症等との戦線に送り出されます

 

そこで

現場にて指揮をとるヘルパーT細胞。

直接戦闘を行う細胞障害性T細胞。

停戦処理をおこなう制御性T細胞。

スーパーヒーローのナチュラルキラーT細胞

これらに分かれてウイルス、細菌、がんなどと戦います。

T細胞は人体における自衛隊の様な役割を担う細胞です。

T細胞に行われる教育

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それではここから過酷な教育現場を紹介します。

胸腺学校における教育は入学、ファースト、セカンドステージに分かれています。

実際の教育はファースト&セカンドステージで受けますが、人間の学校と同じく入学してから直ぐに何かとやることがあります。

入学

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まずは入学です。入学するとT細胞は取りあえず増えます。増えまくって仲間を増やします。

 

T細胞は敵を認識するセンサー(TCRといいます)を1細胞1つ積んでいますが、そのTCRを変化させながら増えます。

こうすると増えれば増えるほど多くのセンサーがそろうので、将来的にいろいろな病原体に対応できるようになります。

増えると同時にCD4とCD8というバッチ(分子)をもらいます。これは進路選択に使うバッチです。これを身に着けたらファーストステージに進みます。

入学してやることは友達づくりとバッチを2つ付けることです。

ファーストステージ

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ここから本格的な教育が始まります。

最初の課題は『自分の細胞を認識する』ことです。

まぁ自分の細胞(仲間)すら認識できない様では、他者と戦うことなんて出来ないですからね。背後から仲間に打たれては自衛隊としての機能が発揮できません。

まずは自分を自分と認識できるかしっかりチェックします。少々、余談ですが、ファーストステージの教官はストローマ細胞先生です。

先生はMHCという同一の人間の細胞が統一して持つ身分証明を見せ『Aは貴方の細胞がもつ身分証明ですか?それともBですか?』という問題を出してきます。MHCは個人個人で形が違います。T細胞はこれを頼りに自己非自己を見分けています。

T細胞は先程出てきたTCRを使って、この問題を間違えることなく自分の身分証を選択すればファーストステージクリアです。

これがクリアできない細胞は体のあらゆる細胞が自分の細胞なのか、他人の細胞なのか認識できません。非常に大切な能力なので最初に確認がされます。

このチェック後に進路相談がありまして、マネージャー希望(ヘルパーT細胞、制御性T細胞)、または戦士希望(細胞障害性T細胞)のどちらになるのか大体きまります。

相談により入学の時に受け取ったバッチの片方を選択します。これ以降、マネージャーコースはCD4バッチを戦士コースはCD8バッチを終生身に着けて生きていきます。

セカンドステージ

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進路が決まったらセカンドステージです。セカンドステージの教官は樹状細胞先生です。

セカンドステージの課題は

『自分の体にもともとある物質(タンパク質)を無視できるか?』

というものです。

自分の体がつくるタンパク質を攻撃しては人間は体の調子を崩してしまいます。そうなってはたまりません。樹状細胞先生は数々の自身のタンパク質を示してきます。

非常に好戦的な性格のT細胞たちですが、これらを全て無視しなければなりません。

人体がもともと持っているタンパク質は無数にありますので、ついついTCRを使って認識&攻撃してしまうT細胞が続出します。攻撃すると『アウトー!!』となり失敗です。

これに全て耐えたT細胞がセカンドステージクリアになります。

ファースト、セカンドステージをクリアしたT細胞は、

T細胞が自身の細胞がもつ身分証明を理解し、さらに元々人体が持っている抗原(タンパク質)は攻撃しないT細胞です。

簡単に言うと自分の体を攻撃しない、非自己のみを攻撃するT細胞が残っています。

ここまで出来れば晴れて卒業&現場配属です。

卒業できなかったT細胞は?

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ファーストステージとセカンドステージをクリアするT細胞は全体の1%程度と言われています。つまり99%は卒業できません。非常に狭き門です。日本の学校ではありえない卒業率です。

え。。。残りの99%は留年するのかって?

自分を認識できなかったり、自分のタンパク質を攻撃してしまったT細胞に対してストローマ細胞先生と樹状細胞先生は問答無用で棺桶をわたしアポトーシスを行わせます。

アポトーシスはプログラム細胞死というもので、寿命を迎えずとも、細胞が自ら崩壊する現象です。

そうです間違ったものに待っているものは自らの手で天に召される事なのです。

留年なんて生易しいものは胸腺学校にはありません。りっばなT細胞になれなかったものに待っているのはハラキリです。最後は自分の手で見せ場を!という考えに日本人と同じ美学を感じてしまいます(笑)

よく教科書ではT細胞は胸腺で教育を受けるという表現がなされるので冒頭ではそういう記載をしましたが、個人的にはそんな生易しい場所じゃないと思っています。

胸腺学校は選民思想に染まったセレクション機関です。

T細胞たる能力をもつ上位1%をふるいにかけるための恐ろしい組織なのです。逆に言えば残ったT細胞はそれだけ優れた能力を有したスーパー免疫細胞なのです。

まとめ

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いかがでしたでしょうか。胸腺学校恐ろしすぎませんか?

99%が死滅するT細胞は数ある細胞の中でもかなり過酷な分類に入ります。

自分と他人を見分けて攻撃するという特殊かつデリケートな仕事を担当しているので、非常に過酷な訓練を受けていると考えると納得がいきますが、少し可愛そうに感じますよね。

T細胞の過酷さと共に、卒業したT細胞達は実はすごい学校を卒業してる頼もしいやつと認識いただけましたら幸いです。

T細胞に親近感わきました?(笑)

関連記事:T細胞の種類と役割。胸腺学校卒業後の進路。