みなさんお疲れ様です。漫画大好きチクチクです。
ちょっと今回は記事の毛色がちがいます..
2011年よりミラクルジャンプおよび週刊ヤングジャンプにて連載中の漫画作品。
作者は作:貴家悠、画:橘賢一。
火星を舞台に、ゴキブリが進化した生物「テラフォーマー」と、人間との戦いを描いたSF悲劇。
三人の両親をもつ子供を生む技術
三人の両親を持つための技術として考えられるのはミトコンドリア置換方法とキメラ化です。
キメラ化に関しては、あまりにも有名なので本記事ではミトコンドリア置換療法を中心に紹介します。
ミトコンドリアと細胞内共生説
まずはミトコンドリアって何なんだ?って話から始めたいと思います。
ミトコンドリア…語源はギリシア語で、mitos(=糸)+khondrion(=粒)糸っぽかったり顆粒状だったためつけられたそうです。
あと余談ですが、ミトコンドリアって実は複数形です。単数形はミトコンドリオンだったりします。
そんなミトコンドリアですが、進化をさかのぼっていくと元々は別の生物でした。
元々は他の生物があまり使っていなかった酸素から沢山エネルギーを作る単細胞生物(プロテオバクテリア好気性細菌の一種)でした。
その単細胞生物を我々の先祖は
と生きるために共闘関係を結びました。
プロテオバクテリアはエネルギーを提供し、宿主である先祖の細胞は大きな体でプロテオバクテリアを守り、エサを与える共闘関係です。
長い年月を重ねるうちに
と自身の細胞内小器官として取り込むことにしました。(果たしてプロテオバクテリア側に合意があったかはわかりません。)
そしてプロテオバクテリアは宿主の細胞内小器官として取り込まれミトコンドリアに変化しました。
その出自からもわかるように酸素をつかって沢山エネルギーを作ることがミトコンドリアの仕事です。
ミトコンドリアの獲得により高エネルギー産生期間を得た我々の祖先は一気に繁栄し、動物やアメーバ等の生物に進化していきました。
なお似通った経過をとった組織として植物の葉緑体(由来はシアノバクテリア)があります。
ミトコンドリア獲得後、さらに欲張ってシアノバクテリアとまで共生関係を結んだグループは、酸素からエネルギーを作り、二酸化炭素から生存に必要な炭水化物合成が可能になったため、おおきく動く必要がなくなり植物へと進化していきます。
こういったミトコンドリアと葉緑体の由来を細胞内共生説といいます。
なお細胞内共生説を裏付ける存在としてハテナ(Hatena arenicola)という鞭毛虫が日本で発見されています。
ハテナは葉緑体を持ちますが、生まれてすぐは葉緑体を持ちません。
では、どうやって葉緑体を獲得するかというと、藻類(シアノバクテリア)を捕食します。
捕食された藻類は次第に葉緑体に変化します。
ハテナは葉緑体獲得進化の途中にいる生き物として一時期界隈を騒がせていました。
太古の我々の祖先も同じような方法で共生を繰り返していたと考えられます。
他にも細胞内共生説を裏付ける、もともと別の生物だった名残として以下の特徴があります。
→もともとミトコンドリアが持っていた細胞膜と、宿主の細胞膜二つをもつ。
ミトコンドリア自身がDNAを持っている
→ミトコンドリアは我々の核内DNAから作られるのではなく自己増殖している。
→そのため子供には卵子の細胞質を通して受けつがれる。
細胞膜が二重というとわかりにくいかと思いますが、細胞は外のものを取り込むときに内側に陥没し、対象をくるむ様にして取り込みます。
以下の写真は細胞内に異物を取り込む様子です。
真ん中のオレンジの球が異物、右下のオレンジの球が取り込まれた後です。
細胞の膜につつまれて取り込まれていることがお分かりいただけると思います。
また核内DNAではなく細胞質を介して遺伝するという特徴によりミトコンドリアは母親から受け継がれます。
男性の精子は核内DNAのやりとりしか行いません。というよりも小さすぎて十分量のミトコンドリアを輸送するのに適していないんです。
母系遺伝のという特徴から、ミトコンドリアに異常がある女性の場合は子供に遺伝してしまいます。
ミトコンドリアに異常がありうまくエネルギー産生を行えない疾患をミトコンドリア病と呼びます。
ミトコンドリア病
ミトコンドリア病は前述のとおり細胞のエネルギーを司るミトコンドリアに異常を抱えている疾患です。
大体頻度は10万人に9~16人くらいの難病です。0.01%です。
頻度としては少なく見えますが10万人に10人とした場合12000人の患者が日本に存在します。
またイギリスでは毎年150人のミトコンドリア病の患者が出産という問題(子供に遺伝してしまう)を抱えています。
機能不全のミトコンドリアの場所と量で症状は様々ですが、エネルギーを沢山つかう神経、心臓、筋肉という組織で症状が出やすいとされています。
エネルギーが足りなくなるため、血液を送れなくなったり、運動ができなくなったりという障害を抱えてしまいます。詳細は難病センターのHPをご確認ください。
ミトコンドリア置換療法
前述のとおりミトコンドリアは母親から受け継がれます。
そのためミトコンドリア病の患者が女性の場合、子供に遺伝してしまします。
この負の遺伝の連鎖を断ち切るために開発された方法がミトコンドリア置換療法です。
ミトコンドリア置換療法の概要を以下に示します。
②健康なドナー卵子の核を取り出し、健康な卵細胞の細胞質(健康なミトコンドリア)を用意する。
③患者の核を健康な卵細胞に移植する
- 生殖細胞への遺伝子操作・介入がさらに拡大していく可能性
- 重篤な疾患のケースのみならず、不妊治療や卵子の若返りなどに適用範囲が拡大していく可能性
この二つが潜在的なリスクとして依然として問題視されています。
イギリスでの認可が2015年。テラフォーマーズで遺伝的母親が二人という話が出たのも2015年(13巻前後だったはず)だったので話題的にも、この技術が一番怪しいんじゃないかな?と個人的に思っています。
キメラ技術
もう一つの方法がキメラ。キマイラとも呼ばれます。
ギリシア神話のテューポーンとエキドナの娘でライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ同名の怪物が語源です。
キメラ自体は非常に有名な技術ですよね。発生初期の受精卵を1つにまとめると1個体として成長するという技術です。
キメラは自然界でも時々発生していて、もともと二卵性双生児が初期段階でキメラ化して一人として生まれてきたり、
双子の造血幹細胞がもう片割れに移行して血液キメラ(モザイク)になっているというケースもあります。(10%弱で起こります。)
キメラ技術自体は古い技術なのでかなりの作成例があります。Googleの画像検索でキメラと検索すると真偽含めてかなりの画像が出てきますので確認してみてください。
ただキメラ技術は、受精卵をふたつ混ぜるという方法です。
これだと、父親を一人に限定せず、二人にした方が多様な遺伝背景持を持つことができます。
前述のとおり膝丸燈の遺伝的父親は一人です。
テラフォーマーズのストーリーを考えると、二人の父親を用意できるのに、あえて父親を一人に制限する理由が思いつきません。
話題性的にもミトコンドリア置換療法のほうが2015年当時としては面白いのでキメラは違うんじゃないかなー?と思います。
あとがき
今回はSF漫画の話題から、生物学とそれを利用した治療方法を紹介してみました。
ミトコンドリア置換療法自体は倫理的問題からまだまだ実施数は少ないですが、
『子供に自分の病気を継がせたくない』という親心を満たす重要な方法だと私個人は考えています。
非常に難しい問題ですが、厳正な管理の上広がっていくといいなと思います。
そして膝丸燈の母親二人問!わたしの予想は当たるでしょうか?
当たることを祈念して連載再開を待ちたいと思います。
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