当ブログではゲノム編集技術である
CRISPRの話を以前取り上げましたが、
なんとCRISPR-Cas9の次世代技術が
Scienceに発表されました。
文献:CRISPR-CasΦ from huge phages is a hypercompact genome editor
(Φはファイって読みます。)
これは完全に私見ですが、
CasΦは産業への応用という意味で
革新的な技術になる気がしてなりません。
まだ発表されたばかりですので、
今回は概要を紹介していきます。
![](https://www.mr-net.info/wp-content/uploads/2020/08/0001-11852608335_20201009_163209_0000-300x185.png)
巨大ファージ から見つかった。CasΦ
CRISPRシステムはもともと原核生物が
ファージに対抗するための免疫システムと考えられてきました。
原核生物に取り付き寄生してくる
ファージのゲノムを破壊するためのシステムです。
このシステムを応用することで人間はゲノム編集を行っています。
(詳しくは過去記事を参照ください。)
そう!原核生物がファージに対抗するためのシステムが
CRISPRシステムのハズでした。
しかしながら
CasΦは原核生物ではなく
敵であるファージから見つかったのです。
すこし脱線しますが、
ここがすごい個人的にグッとくるポイントです!!
(脱線をお許しください)
もともとファージからすると
CRISPRシステムは敵(原核生物)の
ミサイル兵器みたいなもんです。
ファージゲノムを正確に把握し
ズタズタにしていく恐ろしいミサイルです。
Cas3なんかシュレッダーとか呼ばれるくらい
ボロボロにしていきます。
そんな敵の破壊兵器をファージ は
鹵獲(ろかく)し自分の兵器として取り込んだわけですね。
どういった経緯でファージが
CRISPRを取り込んだかは不明ですが、
生物界における利用できるものは全て利用して
生き残るという貪欲さをここから感じてなりません!!
敵の武器を奪って自分の武器にするって、
どこぞの機動戦士のストーリーみたいですよね!!興奮します。
さて本筋に戻ります。
CasΦはが見つかったファージはただのファージではなく
巨大ファージと呼ばれるファージから発見されました。
名前の通り非常に大きいファージです。
最も小さいものとたど20倍近く違います。
かなりの大きさの差がありまして
発見当初はウイルスと認知してもらえなかったそうです。
余談ですが、名前に冠されている
Φ(ファイ)は生物学でファージを表すギリシア文字です。
この巨大ファージは原核生物ではなく
アメーバに寄生することで自己増殖を行うウイルスです。
巨大ファージがどのように
CRISPRシステムを活用しているかというと、
同様にアメーバに寄生するファージ(競合するファージ)のゲノムを破壊し、
自分だけが寄生し増殖するために使われていると原著では仮説が立てられています。
MIMIVIREとの関係は?
巨大ファージが競合するファージのゲノム破壊を行う…
実はこの文字を見たときにすごい既視感がありました。
それが2016年に発表されたnatureの論文です。
文献:MIMIVIRE is a defence system in mimivirus that confers resistance to virophage
この論文ではヴァイロファージという巨大ファージを利用して増えるファージと
それに対する防御機構MIMIVIRE(mimivirus virophage resistant element:ミミウイルスウイルスファージ耐性要素)
が紹介されています。
ヴァイロファージはミミウイルスという巨大ファージと一緒にアメーバに侵入し、
巨大ファージが作り出した自己複製システムの中に入り込み、それを利用して増殖します。
ヴァイロファージに利用された巨大ファージは正常な増殖が妨げられてしまいます。
それを防ぐ免疫システムとして
MIMIVIREというファージ耐性システムが搭載されていることが判明した!!という論文です。
実際MIMIVIREはヴァイロファージのゲノムを破壊することがわかっています。
- 競合するファージに対抗するシステムとしてのCRISPR‐CasΦ
- 寄生して競合するファージに対抗するシステムとしてのMIMIVIRE
当初からCRISPRそっくりじゃね?と言われていたようで、
CRISPR-like ‘immune’system discovered in giant virus:
巨大ウイルスで発見されたCRISPRのような「免疫」システムという名前の文献もあるくらいです。
調べた限り、MIMIVIREの詳しいメカニズムはわかっていないみたいでした。
ファージの変異スピードはとんでもないので、
まったくの別システムである可能性も微レ存してそうですが、
似たようなシステムが偶発的に別機序で生まれたというよりは、
同じシステムを別の見方で発見したという方が筋が通るような気はします。
近い将来、結局CasΦと同じシステムでした!!とまとめられそうな気がします。
CasΦ最大のメリットは小ささ
さてCasΦに戻りましょう!!
CasΦの最大のメリットはその小ささです。
70kDa~80kDaという今までのCas9の半分のサイズです。
従来のCas9遺伝子はウイルスベクターに積載して標的細胞内で発現させるには
少々大きいという問題点を抱えていました。
そのため多くの研究者が小型化に取り組んでいます。
その成果として2分割しても活性を維持するSaCas9等も現れています。
そんな中登場したCasΦは
分割せずとも半分のサイズなので、
そのままウイルスベクターに積むことが可能だと考えられます。
ゾルゲンスマに使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)に積むことができれば、
標的組織でCas9 遺伝子とcrRNAを発現させ
後天的に遺伝子編集を行えるようになるかもしれません。
あとがき
実はCas9テクノロジーは特許関連で揉めていて、
誰にお金を払えばいいかはっきりしない状態が続いています。
そのため、産業に応用しにくく
CRISPRテクノロジーをそのまま薬にするのは無理じゃない?
とも言われていました。
しかしながら、Cas9特許紛争の反省を活かし、
発見者のジェニファーダウドナ教授は
今回のCasΦは特許関連もばっちり対策しているようです。
ファ〇ザーとかノバルテ〇スあたりが目をつけて
一気に開発、10年後に新薬発売とかなったらエモいなぁ…
そんな未来を夢見て今回は筆をおきます。