低酸素誘導因子HIFの解説

もくじ

はじめに

先日、RNA干渉とそれを応用した薬に関する記事を紹介しましたが、実は2019年の発見HIFについても既に新薬が発売になっています。今回は、そのHIFの役割と、HIFが活性化すると言われている遺伝子についてまとめました。

非常にホットな話題ですが

今回はかなりかみ砕けた様な気がします。ご賞味いただけると幸いです。

HIFとその歴史

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今回のテーマであるHIFはhypoxia inducible factorの頭文字を取っています。

日本語訳すると低酸素誘導因子。低酸素状態で働く物質です。

HIFは1992年にグレッグ・セメンザらによっ発見されました。ウィリアム・ケリン、ピーター・ラトクリフ、グレッグ・セメンザは2019年に細胞による酸素量の感知とその適応機序の解明によってノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

HIFのメカニズム

HIFによる遺伝子転写メカニズムを紹介します。

登場人物紹介

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簡単に登場人物の紹介を行います。

HIF-α:実は3兄弟。HIF‐1α、HIF‐2α、HIF‐3αがいる。今回はまとめて記載。皆、HIF-β仲良くしたい。HIF-PHが天敵で短命に終わることが多い。血を作る遺伝子や血管を伸ばす遺伝子なと数々の遺伝子発現をコントロールする凄いやつ。HIF-βと合体することで能力を開放する。

HIF‐β:HIF-PHのせいで、なかなかやって来ないHIF-αを待ち続けている。HIF‐αと仲良くしたい。HIF‐αと合体することで能力を開放する。

HIF-PH:HIF‐αを分解する酵素。何となく悪いやつに見えますが、HIFが暴走しないように酸素濃度にしたがってHIF‐αの数を適切に管理している敏腕マネージャー。酸素で元気になる。

RNAポリメラーゼ:DNA情報を読み込み、mRNAに写し取る仕事人。膨大な情報を間違えることなくmRNAに複写することが仕事。

mRNAについては過去記事:RNA干渉とRNAi治療薬(siRNA核酸医薬)を参照ください。

メカニズム解説

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メカニズムを紹介する際に重要なのは低酸素状態か非低酸素状態かということです。

具体的にこれで変わるのはHIF‐PHの活性が変わります。酸素がある状態では活性が上がり、酸素濃度が低くなるにしたがって活性が下がります。

HIFメカニズム

※HIFによる遺伝子転写のメカニズム

酸素が十分にある環境では産生されたHIF‐αはすぐにHIF-PHによって分解されてしまう運命にあります。そのため、ほとんどのβと結合することができません。運よくHIF-PHから逃げてることができた極々少数のHIF‐αがβと結合し核内に移行します。

酸素濃度が落ちてくるとHIF-PHの活性が落ちてきます。するとHIF‐αの分解される量が減ってきます。結果多くのβと結合することが出来、多くの複合体が核内に移行します。複合体を目印にしたRNAポリメラーゼによって低酸素状態に適応するための各種遺伝子転写が強力に行われます。これがHIFの役割です。

次に実際に転写される遺伝子とどんな役割を持つのかということを紹介します

HIFが活性化した結果、動き出す遺伝子たち

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HIFは低酸素に対する適応という、生命に直結する事柄を司っているため、惹起される遺伝子は多岐にわたります。

死ぬ気で低酸素状態に適応しろ!!!

という命令が出ていますので各種遺伝子を総動員して対応しようとします。。

以下簡単にまとめました。一部力が及ばない部分もございます。詳しい方いらっしゃいましたら是非ともコメントで教えてください。

鉄コントロールに関連する遺伝子

DMT1:Divalent metal transpoter1:2価金属イオンのトランスポーターを増やします⇒小腸での鉄吸収に関わっており、どんどん食事から鉄を取り込む様になります。

Dcytb:十二指腸における鉄イオンのFe³⁺からFe²⁺への変換を触媒する酵素を増やします⇒簡単に言うと鉄を取り込みやすくする。

Tf:鉄の運搬&貯蔵に関わるタンパク質トランスフェリンを増やします⇒吸収した鉄を運ぶ運搬車みたいなもの。Tfが増えるどんどん骨の造血細胞に血の材料になる鉄を送れる。

これら3つの遺伝子が活性化されることで、血の材料を確保し鉄の巡りを良くして造血細胞に効率的に鉄を送り込むことで造血を促します。

造血因子エリスロポエチンに関連する遺伝子

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EPO:赤血球をつくるエリスロポエチン遺伝子⇒エリスロポエチンを増産することで血を作る命令を強化します。どんどん血を作るようになります。

血管関連の遺伝子

VEGF:血管内皮成長因子⇒新しい血管を作って少ない酸素を送りやすくする。

エネルギー調整関連遺伝子

COX4-2:ミトコンドリア活性のコントロール⇒エネルギー効率の調整

GLUT1:糖分の取り込み⇒造血や生命保持のエネルギー確保

PDK1:ピルビン酸代謝更新⇒造血や生命保持のエネルギー確保

その他(力が及ばなかった奴ら)

BNIP3,Bcl-xL:アポトーシス(細胞死)コントロールを司っている⇒たぶん、細胞死コントロールして必要なところだけ生かして酸素確保するシステムだと思うけど詳しくは判りせんでした。詳しい方教えてください。

CXCR4:遊走コントロール、がん細胞が転移しやすくなる模様。詳しくは上記同様力不足です。

VEGFやCXCR4はがんの成長や転移にも関わるためHIFを抑えれば新しいタイプの抗がん剤ができると期待されていますし。逆にHIFを活性化すれば血液増産が行えると考えられて既に製品化されています(ロキサデュスタット)

また、エネルギー効率を改善したり血管を伸ばしたりする作用から加齢性疾患の改善についても開発が行われています。

HIF-PH阻害薬

前述のロキサデュスタットはHIF‐PHを阻害することで、疑似的に低酸素状態をつります。HIF-PHが働けなくなりますので、HIF-αが増え、上記遺伝子転写が進みます。

ちなみにロキサデュスタットはドーピング規制薬物となっているようです。

終わりに

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いかがだったでしょうか。うまく伝わりましたでしょうか。

2019年にノーベル賞を受賞した発見を応用した薬が2020年には既に発売しているとは製薬メーカーの研究スピードは本当に速いと思いませんか?かなり早い段階から目をつけていたのでしょう。

HIFこれからどんどん熱くなっていく領域な気がします。注目したいです。

関連記事:RNA干渉とRNAi治療薬(siRNA核酸医薬)

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