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抗体薬物複合体の解説と抗がん剤エンハーツの特徴

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はじめに

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過去記事:RNA干渉とRNAi治療薬(siRNA核酸医薬) で「有効な成分であっても目的とする部位に届かないという課題がある」という話を紹介しました。

実はこれに対する一つの解答は既に臨床応用されております。それが今回のテーマの抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate)です。頭文字をとってADCと略されます。

簡単に紹介すると狙った場所に高濃度で薬物を届ける技術です。薬を届けたくない部分には届けず、副作用を抑えることができますし、届けたい部分には高濃度で薬物を届けることができます。人類が望んでいたドラックデリバリーシステムの一つです。

抗体薬物複合体の構造、原理、そしてこの領域では明らかにブレイクスルーとなるであろう薬剤のエンハーツについて確認したいと思います。

ちなみに2020年5月現在、ADCは

マイロターグ、ゼヴァリン、アドセトリス、カドサイラ、ベスポンサ、LUMOXITI、Polivy、エンハーツ、PADCEVの9製品が製品化されています。

 
どれも凄い技術の薬…紹介し足りません。

抗体薬物複合体の構造

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抗体薬物複合体は名前の通り抗体と薬物の複合体です。教科書的には3つのパーツで構成されています。

  1. モノクローナル抗体
  2. 薬物
  3. リンカー

の3パーツです。

抗体ってなに?いう方は先に過去記事:igG、igMって何?抗体の役割とは。

モノクローナル?という方は過去記事:武田薬品開発中の抗SARS-CoV-2ポリクローナル高度免疫グロブリン製剤とは?をご確認いただけると理解の助けになるかと思います。

リンカーにはさまざまな物質が採用されていますが、基本の役割はモノクローナル抗体と薬物を繫ぐことです。link-erと名前のまんまの意味ですね。つなぎ役です。実はリンカーの性質の差で抗体に搭載できる薬物の数が変わることも分かっています。

後ほど紹介するエンハーツはこの部分が凄いです。

なんとなく脇役っぽく見えるリンカーですがADCにおいて間違いなく主役級です。

 
ゼルダの伝説のリンクと同じ名前の由来ですからね。主役級でない訳がありません。

リンカーに求められるメインの仕事は下記2点です。

  • 目的の場所まで切断されないこと
  • 目的の場所では速やかに切断されること

血管内で切断されて危険な薬物が解き放たれては大きな副作用につながりますし目的の場所で薬物をなかなか開放できなければ、効果が弱くなってしまいます。ただのつなぎ役ではなく、性能を決める上で重要な調整を担っています。血管内で切断されて危険な薬物が解き放たれては大きな副作用につながりますし目的の場所で薬物をなかなか開放できなければ、効果が弱くなってしまいます。

構造に関してはPADCEVのホームページの画像が解りやかったです。こんな感じで抗体に4つ薬がついています。

PEDCEV構造
出典:PADCEV.com

 

抗体と薬物を結合させることで薬物に対してモノクローナル抗体の抗原特異性(特定の相手を狙って結合する性質)を与えることに成功したわけです。

結果として血中に存在する活性化した薬物量を少なくできるので、副作用を減らしたり、より高濃度の薬剤を投与することが出来るようになったりします。

また、効果が強く直接注射すると毒性が強くて使えない物質であっても適切な抗体とリンカーを用いることで有用な薬物とすることが期待できます。

 
すごい技術ですよね
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薬物抗体比(DAR)

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DARも薬効を判断する上で非常に重要な概念ですので、紹介させて頂きます。DARはDrug to Antibody Ratio、日本語訳すると薬物抗体比といいます。

一言でいうと、一つの抗体にいくつ薬を搭載できるのかを表しています。

DAR2は1抗体に2つ 、DAR4は4つ、DAR8は8つ搭載していることを表しています。最大値は8です。数が多くなれば多くなるほど薬効が強くなりますが、発売されているほとんどのADCのDARは2~4です。先ほどのPADCEVもDARは4でした。

8が最大数ならば全部8にすればいいじゃない?と思いますが、実はそこが課題だったりします。

どんな課題かというと、DAR8にすると薬効が落ちることが分かっています。これは増えたリンカーの性質が干渉して薬が凝集してしまう為と考えられています。平たく言うと抗体たちがくっついて絡んで塊になってしまいます。こうなると上手く仕事が出来ません。

DAR8のより強力なADCを作るために干渉ぜず凝集しないリンカーの開発が大きな課題でした。DARが4⇒8となれば届けられる薬物の数が2倍に増えますからね。その分、効果も期待できるようになります。

DAR8の抗体薬物複合体は大きな目標でした。(過去形)

 
…過去形の理由は後ほど紹介します。

抗体薬物複合体の原理

抗体薬物複合体の基本原理は以下になります。

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青い線は細胞膜、オレンジの点は標的分子、緑の点は薬物

をそれぞれ表しています。

薬効を示すまでのステップは

  1. ADCの抗体部分が標的細胞の標的分子を認識して結合する
  2. 結合したADCは細胞によって細胞内に取り込まれる
  3. 分解するための器官リソソームによりADCのリンカーや抗体が分解される
  4. リンカーから切り離された薬物が放出され薬効が現れる

基本的なADCの原理だいたいどれも同じ感じです。

抗体の働きによって選択的に狙った細胞に取り込まれ、リンカーが切断されることで薬効を示します。

リソソームは細胞内に入ってきた物質を分解知る働きを持ちます。リンカーはリソソームや標的に特異的な物質で分解される様にデザインされています。

そうすることで、標的分子が多くある場所に多く薬が移行し、かつ細胞内で薬物が解放される様になります。

  • 抗体:結合するポイントをきめる。ここを変えることでターゲット細胞を変えられる。
  • リンカー:薬物をリリースする場所を調整。副作用にも関連。
  • 薬物:疾患に有効な薬物

抗体薬物複合体は、この3つの組み合わせで、数々の薬が新しく作れる技術なんです。

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エンハーツについて

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最後に日本でも3月末に承認された第一三共のエンハーツを紹介します。

これは間違いなくADCの新時代をつくる薬剤です。期待の表れとして、エンハーツは米国食品医薬品局からHER2陽性の転移性乳がん治療を対象として優先承認審査を受けています。(ちなみにPADCEVも受けています)

エンハーツの一般名はトラスツズマブ デルクステカン。製品名はエンハーツ点滴静注用100mgです。

 
…一般名ながいですねぇ…その上、噛みそうです。

前半のトラスツズマブはモノクローナル抗体の名前、後半のデルクステカンはリンカーと薬物であるカンプトテシン誘導体の名前を表しています。

トラスツズマブはハーセプチンという名前で製品化もされていますし、同じADCのカドサイラも同じトラスツズマブを使っています。HER2を標的とするモノクローナル抗体として確かな実績があります。

ちなみにHER2はハーツ―と呼びます。

これは名前の由来にもなっていてEnhance(強化する)とHER2を組み合わせて名付けられてます。名前からして強そうですね。

HER2は細胞の増殖に関与するとされるタンパク質です。主に乳がん、胃がん、大腸がん、肺がん、膀胱がんなどのがんの表面に多く発現することが分かっています。

正常細胞よりも圧倒的に上記がん細胞に多く発現していますので、これをターゲットにADCをつくると、正常細胞と比べてがん細胞に圧倒的多くの抗がん剤をとどけられます。しかし、この点はカドサイラも同じです。

エンハーツの特徴をもっとも表しているのはDAR約8という数値とそれを可能にしたリンカーです。

前述のとおりDAR8はADCにおける技術的目標の一つでした。そうです『でした』過去形なのです。エンハーツはDAR8をついに達成した薬剤なんです。

【約】8であるのはどーしても作成途中ではずれちゃう薬剤が出てくるためです。100%はあり得ないですから。

それでもエンハーツのその精度は高くほぼ8です。これは本当にすごいです。DAR4と比べて2倍の薬物を運べるようになった訳です。その分、効果も期待できます。

エンハーツは8つの薬物を搭載しても凝集しないリンカーが使われているうえ、そのリンカーは血中で安定し簡単には薬物を放出しません。さらにがん細胞で多く発現しているカテプシンによって切断されるため、非がん細胞に吸収されても薬物リリースを起こしにくい特徴を有しています。

 
リンカーの性能が凄いです。とんでもないリンカーが搭載されています。(興奮)

さらに薬物のカンプトテシン誘導体ですが、カンプトテシン自体は1966年には構造が明らかになっているほど古い物質です。明らかな抗がん作用を有しています。単体では毒性が強いため、性能を引き出すために誘導体が開発されています。

エンハーツに使われているカンプトテシン誘導体は抗がん作用を有するとともに、万が一血中に解き放たれた場合の為に血中半減期も短く設計されています。

そもそもがん細胞以外ではリリースされにくいのに、仮にリリースされても早急に消失する訳ですね。

 
細かい工夫が沢山つまっています。

まとめ

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抗体薬物複合体。いかがだったでしょうか。

今回は紹介を避けましたが、実はまだまだ課題のある技術ではある様です、しかしながら、その課題はエンハーツの様に確実に解決されています。

将来的には薬物輸送に課題が残る核酸医薬もADC化することで課題解決が図られる時代が来るのかもしれません。

 
本当に夢のある技術ですよね。

追記

2020/05/25本邦発売されました。承認時薬価は100mg1瓶16万5074円。ピーク時に129億円の売り上げを見込む模様です。

直感的には129億というのは少ない気がします。

追適でどこまで拡大するのか見ものですね。

※有効性・安全性に関しては第一三共さんのサイトをご確認ください。