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薬害歴史のまとめ。アビガンが広く積極的に使われない理由。

はじめに

2020/04/17現在、Twitterやワイドショーでアビガンの新型コロナウイルスへの積極的使用推奨を非常に良く見ます。

長年製薬会社で勤務して薬害の研修を多く受けてきた身としては非常に危機感を感じています。(杞憂であれば一番いいです。)

今回はアビガンの積極的使用を謳う前に、一度薬害について考えてほしいと思い、

日本国内の主要な薬害事件について時系列で概略だけをまとめ記載しました。

特に『現在の薬機法の礎を作るきっかけとなった事件』については一度確認された上でアビガンの積極的投与について考えてもらえればいいと思います。

初期の薬害

ジフテリア予防接種禍事件 1949年

被害数:900名前後

症状・被害:ジフテリア菌への感染。

世界史上最大の予防接種事故

原因

・ワクチンにジフテリア毒素が残留したために発生

問題点

  • 終戦直後のGHQの指令に応えるために十分な体制が整う前に製造を行ってしまった、結果としてホルマリンによる無毒化に失敗
  • さらにランダムサンプリング検査が機能せずジフテリア毒素が残留
  • 国家検定制度も形骸化していた。

ペニシリンによるショック死事件 1956年

被害数:1276名のショック症状 124名の死亡

症状・被害:ショック・死亡

原因

  • ペニシリンによるアレルギーショック

問題点

  • アレルギーショックによる報告・警告はあったにも関わらず医療現場、製薬会社・行政の対策に活かされなかった。

その後の対応

  • アレルギーへの問診や皮内テストが行われる様に医療現場が変化した。

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現在の薬機法の礎を作るきっかけとなった事件

ここから紹介する事件は『医薬品は有効性・安全性を治験、並びに市販後調査で明らかにして使う』という現在となっては当たり前の概念を形作るきっかけとなっています。

アビガンの積極推奨を懸念する判断材料にもなってます。

サリドマイド事件 1962年

現在の薬事法の基礎を整備するきっかけとなっている事件

これまでは医薬品が催奇形性を起こすとは知られていなかった。

被害数:約1000人

症状:催奇形性。奇形児の誕生

原因

  • 妊娠中のサリドマイド使用

問題点

  • 市販後の安全対策を国と製薬会社が怠ったために発生した。国内発売は1958年。最初の催奇形性の報告は1959年。販売停止は1962年と発見から3年以上販売されたため被害が拡大してしまった。
  • 海外情報が安全性評価に活かされず、かつ承認審査や安全対策にも活かされなかった。
  • 当時の世界全体の話として医薬品の副作用に関する関心が薄かった。
  • ちなみに米国FDAは審査担当者がデータ不足を懸念し承認しておらず薬害がおこっていない。データの確認をしていれば防げた事件であった。

その後の対応

  • 「医薬品の製造承認等に基本指針」制定
  • 副作用モニター制度等の副作用情報収集体制の強化
  • 薬事法に関わる各種行政指導の強化

市販後にわかる情報と再評価の重要性が認識された事件です。

クロロキン網膜症事件 1969年頃

被害数:1000~2000人

症状:網膜症

原因

  • マラリア治療薬のクロロキンを腎炎や喘息などに使用することにより網膜症発症

問題点

  • 他国の網膜症発症情報入手後の国としての安全対策実施を行わなかった事。
  • 安易な適応拡大が行われた(腎炎等の安全性データは十分でなかった
  • 一部の権威ある医師の使用経験で適応拡大が行われた。
  • 製薬会社会社としての対応を行わず発売禁止まで長い時間を要した。(最初の国際報告は1959年 販売中止は1974年と15年かかっている。)
  • 短期試験の評価のみで長期の安全性に対する検討が不十分であった。

その後の対応

  • 後述のスモン薬害と合わせて医薬品の科学的承認体制強化につながった。

具体的な制度はスモン薬害で記述します。

スモン薬害 1970年

被害数:1万人以上

症状:下痢や腹痛等の消化器症状、下肢等の激しい知覚障害、激痛、運動麻痺等。ときに視覚障害、膀胱、発汗障害、性機能障害等これらが全身に及ぶ難治性疾患

原因

  • 整腸剤キノホルムによる副作用

問題点

  • 1899年から半世紀以上使用されている副作用のない安全な外用の殺菌剤(歴史的に安全な薬という地位を築いた)
  • それが内服となり、効能追加適応がされた。
  • また使用期間も短期間から長期連用と変化してしまった。
  • 上記の変化が歴史的に安全だという理由だけで確実なデータをとる事がなく行われた。
  • 結果として安全性確認不十分により副作用が発生し1万人以上の被害者を生み出した。
  • 原因特定まで長い時間がかかり1955年頃の確認1970年の発売中止と15年の歳月がかかった。
  • 長年原因不明の奇病とされた為ウイルス原因説も唱えられ差別につながった。
  • 長期間の裁判後でなければ被害者が救済されず問題になった。
  • クロロキンと構造が類似しているためスウェーデンの研究者は日本で問題になる前にキノホルムの危険性は発表されていたが活かされなかった。

その後の対応

  • 医薬品副作用被害救済基金法制定
  • 薬事法改定(再評価・再審査制度の制定。製薬会社の副作用報告義務化等)

この事件は長い間、副作用のない薬とされていても安全ではないことを示しています。

また根拠の薄い適応拡大を避け適切なデータを評価する重要性が認知された事件です。

小括:スモン、サリドマイド、クロロキン網膜症事件を経て

これらの事件を経て医薬品副作用被害救済制度や副作用モニター制度等のその後のモニター制度の整備、催奇形性に関わる試験、ならびに治験そのものの整備等、薬事法の改正につながりました。

現在の、有効性・安全性に基づく承認と市販後調査の実施は上記事件がきっかけとなって設定がされています。

ここからはその後に起きた更なる制度整備につながった事件を紹介します。

特にソリブジン事件は重要です。

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更なる制度整備につながった事件

筋肉注射液による四頭筋短縮症 1973年頃

被害数:約1万人

症状・被害:乳幼児の膝が曲がらなくなる。データ不足の中小児に使われたことが原因

原因:小児の筋組織に抗生剤や解熱剤の注射を大量に打つことで発症

問題点

  • 製薬会社の解析不十分。医療機関への情報提供不十分。製薬会社が情報伝達に関して十二分な役割を担わなかった。
  • 小児科や内科で注射を実施し大腿四頭筋短縮は整形外科が担当したため医療機関の相互連携不備がおき特定が遅れてしまった。
  • 即効性のある注射薬が求められ使用数が多かったという社会的背景

その後の対策

  • 製薬会社の安全性情報の集積・解析・周知徹底義務が明確化された。

現在のMR業務の基礎となっているね。

薬害エイズ事件 1983年頃

被害:1400人以上

症状・被害:HIVへの感染

原因

  • 血友病患者に使うための非加熱血液製剤にHIVが混入した。

要因

  • 加熱製剤が海外で発売されていたにも関わらず、承認されず、懸念のあった非加熱製剤が使用された。
  • 他国の最新情報が審査に活かされないシステムになっていた。
  • 製薬会社は危険性を知りながら販売を継続した。また国も感染拡大防止のための有効措置を取らなかった。

その後の対応:

  • 医薬品承認審査体制の再構築と強化
  • 生物由来製品に関する治験整備や海外承認品への対応
  • 事前説明による投薬に対する患者合意の重要性等が示される。
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構法制定
  • 安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律改定

C型肝炎事件 1987年頃

被害数:約1万人

症状・被害:C型肝炎ウイルスへの感染

原因:フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス感染

要因

この事件の要因と対策については多岐にわたるため引用元の下記テーブルをご確認ください。

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引用:https://www.pmrj.jp/publications/02/pmdrs_column/pmdrs_column_89-48_05.pdf

個人的に興味深いのは

製薬企業等に求められる責任の明確化が規定された。薬害教育も義務付けられた。

という点です。この改定のお陰で私は会社で教育を受け、この記事を書くきっかけとなっています。

陣痛促進剤による子宮破裂・胎児仮死 1988年ごろ

被害数:不明(使用過誤に伴うので現在も起こりうる)

症状・被害:支給破裂や胎児仮死により、母親死亡や重度の脳性麻痺を起こす。

原因

  • 陣痛促進剤の安易な使用や不適切な使用

問題点

  • 効果に個人差が多いにも関わらず製薬会社による適切な使用方法が徹底されなかった。
  • 医薬品の説明書である添付文書に詳細な情報を記載することが難しい社会情勢であった。

その後の対策

  • 医薬品の添付文書により詳細な使用方法等の情報記載につながった。

当時は医師の処方権の侵害として添付文書への詳細記入が避けられていました。

MMRワクチン副作用問題 1992年頃

被害数:約1800人

症状・被害:無菌性髄膜炎に伴う後遺症や死亡

原因

  • MMR(はしか、おたふく、風疹)ワクチンによる無菌性髄膜炎

問題点

  • 製薬会社の製造方法の無許可変更(国家承認なく細胞培養法⇒細胞培養法+羊膜培養法に変更)
  • ワクチン自体の無菌性髄膜炎の頻度が低く発見が遅れてしまった。

その後の対策

ワクチン安全性情報の収集強化。またワクチンの安全性情報を収集することが非常に難しいことが認識された。

ソリブジン事件 1993年

被害数:23人(発売1か月間)

症状・被害:死亡 重篤な骨髄抑制の副作用。それに伴う死亡(治験で3人死亡。発売1か月で15人の死亡)

原因

帯状疱疹治療薬ソリブジンと5-FU系抗がん剤の併用による重篤な骨髄抑制

問題点

  • 治験段階で死亡例が発生していたにも関わらず企業による情報提供が不十分であった。
  • 厚生省の指示があったにも関わらず製薬会社の対応が遅く被害が拡大した。
  • 事件発覚直後、企業関係者がインサイダー取引を行う等、安全性よりも利益優先の姿勢をとっていた。
  • 医薬分業の機能不全。薬剤師によるダブルチェック機能が働かなかった。

その後の対応

  • 添付文書記載要領の改訂により相互作用の項目に関して変更
  • 特に致死的な場合は『警告』『禁忌』『一般的注意』にも記載する様に変化
  • 『警告』『禁忌』に関してはパンフレットの表紙に明確に記載

製薬会社の社員が最も忘れてはいけない薬害です。個人的には№1やらかし事件だと思います。

これをはっきりと話せないMRは使命感が足りないかもしれない。

ヒト乾燥硬膜移植によるCJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)事件 1997年ごろ

被害数:141人

症状・被害:記憶障害、歩行・視力障害等の精神・神経症状。その後死亡。

原因

ヒト乾燥硬膜移植による異常ブリオンの取り込み

問題点

  • 国立予防衛生研究所から判明していたリスク情報が厚生省に届かなかった。つまりは厚生省内での情報の共有化がなされなかったことが直接的な要因。
  • 医薬品ではなく医療・用具の分類で生物由来製品が承認され使われていたため、これまで整備された制度が適応されず漏れてしまった。医療・用具に関しては医薬品と比較して安全性体制が不十分であった等々

その後の対策

  • 厚生・省内の健康危機管理体制の強化
  • 生物由来製・品に対する安全対策を強化等

イレッサ事件 2002年頃

被害数:20例(治験時) 40例(発売3年間)

症状・被害:死亡

原因

・抗がん剤イレッサの不適切な使用による重篤な骨髄機能抑制に起因する死亡

問題点

  • 適正使用の為の情報が医療の現場に徹底されず、重篤な副作用が続いた。
  • ソリブジン事件の教訓を活かさず、重大な副作用の情報を警告蘭に記載しないまま承認されそうになった。(そもそもの企業姿勢の問題)

その後の対策:

  • 新規作用メカニズム、効き目の強い薬剤を欧米に先駆けて承認するためには更に慎重な審査を必要とするように変化
  • 全調査の承認要件設定

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アビガンの積極的使用推奨について

冒頭でも記載しましたが、現在いろいろな場所でアビガンの積極的使用が検討・発信されています。

上記の薬害事件を熟知している厚労省をはじめとした政府機関はデータのないアビガンの積極的使用には消極的です。

ここまで読んでいただいた方には理由は何となくわかるかと思います。

アビガンの副作用情報・有効性情報の現状

アビガンの審査結果報告書には以下記載があります。

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有用性は未だ検証されたとは言えず、米国において臨床での有用性が示唆された段階に過ぎない(中略)危機管理を前提として承認する

また添付文書にも以下記載があります。

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有効性及び安全性が検討された臨床試験は実施されていない。

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承認用法および用量における投与経験はない。

一貫しているのは承認されている適応症ですら安全性・有効性情報が足りていないということです。

 

臨床試験もなく、承認用量における安全性データもありません。市販後も使用されていない薬ですので大規模に使った際の安全性データもなければ、相互作用に関する情報も不十分です。

これらは全て過去の薬害で必要だとされてきたものです。

当然新型コロナウイルスに関する安全性データ・有効性データは更に乏しいです。(2020/4/17現在、非常に速いスピードで開発は進んでいます)

医薬品副作用救済制度の対象になるのか

余談ですが、新型コロナウイルスへの使用は適応外なので医薬品副作用救済制度の適応なのか窓口にメールを送ってみました。著作権都合でメールを載せられませんので、当時のTweetを記載します。

適応外の可能性もあるとの事。どうしようもない副作用でても自己責任で補償はおりないかもしれません。

現状では基金にも断言はできないという状態でした。

 薬害の歴史から得られる教訓

クロロキン事件の参考資料には以下記載があります。

『無原則的に、科学的な裏付けも乏しく、適応範囲が拡大され、短期的な使用から、長期的な使用へと広がり、さらには、医師の使用経験のない医薬品がいきなり一般用医薬品として、新しい適用で販売される』

 引用:https://www.pmrj.jp/publications/02/pmdrs_column/pmdrs_column_115-50_07.pdf

これはクロロキン事件の教訓を述べたものですが、現在のアビガンの適応拡大を求める声はまさに上記記載と同様の内容です。

つまりは現在の薬機法の基礎を無視した内容になっております。

悲劇の教訓から生み出された現在の薬機法を無視しているのですから、私は危機感を感じてしまったのでしょう。

さらに加えますと

インフルエンザで500例の安全性データがあるとアビガンの積極的推奨をうたう人がいますが、スモン事件を見れば、長期にわたって安全だと考えられていた薬が適応症を変えただけで重大な副作用を起こすことがわかります。

安易に推奨することはスモン薬害の教訓全く活かしていないと言えます。

状況が状況ですので、高い専門性を持つ医師がリスク&ベネフィットを判断して使う分には否定されるものではありませんし、この状況を切り抜けるためには使用して救命ならびに新たな知見を生み出してほしいと思います。

しかしながら、ワイドショーのコメンテーター等の薬害教育を受けていない素人が安易に積極的使用を促すことは絶対に避けるべきです。

市民の声に負けて広く使用される様になれば重大な薬害につながる恐れがあります。

私のこの懸念が杞憂で済めばいいと本当におもいます。

当記事を受けて安易な推奨が減り、慎重に使われることでアビガンの性能が十二分に引き出され、薬外なくコロナの早期終結につながることを願っております。

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