標的タンパク質分解誘導薬…聴き慣れない薬ですよね。
でもこれも、これからの創薬を変えるかも?と
言われているモダリティの一つです。
英語のTargeted Protein Degradationの頭文字をとって
TPDと呼ばれたりもします。
TPDって実は色々開発されていまして
もっともメジャーなタイプを一言で解説すると
標的タンパク質結合ドメインをリンカーで繋いだ
二機能性の低分子化合物

ぶっちゃけこれじゃあ訳わかんないですよね!

そこで今回は、この分かりにくい日本語の薬を
中学3年生でもわかる!をコンセプトに
基本を解説していきます。


知っておいた方がいい薬だと思うわ!
ユビキチン-プロテアソームシステムとは
TPDを解説する上で避けて通れないのが
ユビキチン-プロテアソームシステムです。

ちゃんと順番に紹介します。
ユビキチン-プロテアソームシステムは
簡単にいうと不要なタンパク質を
選択的に分解するシステムのことです。

タンパク質の分解を制御することで
細胞周期やアポトーシス、シグナル伝達から転写制御まで
さまざまな体内の調整を行なっています。
実はノーベル賞受賞発見でして、イスラエル工科大学のアーロン・チェハノバ教授、
同大学のアブラム・ヘルシュコ教授、
カリフォルニア大学アーバイン校のアーウィン・ローズ博士
この3人は、2004年ノーベル化学賞を受賞しています。
登場する物質は5つです。
- ユビキチン
- プロテアソーム
- E1:ユビキチン活性化酵素
- E2:ユビキチン結合酵素
- E3:ユビキチンリガーゼ
これがさまざまな形でタンパク質にくっつく事でタンパク質の運命が決まります。
名前の通り活性化する酵素と結合して運ぶ酵素と合成する酵素(リガーゼ)
がそれぞれ協力してタンパク質をユビキチン化します。

ユビキチン-プロテアソームシステムのメカニズム

- まず活性化酵素であるE1がユビキチンをキャッチし活性化します。
その後E2にユビキチンを渡します。 - 結合酵素であるE2はユビキチンと結合した後、
E3と結合し複合体を形成します。 - 結合後E3はE2からユビキチンを受け取り
さらに不要になったタンパク質を認識しユビキチン化します。
結合するユビキチンが十分な長さになるまでこの反応は繰り返されます。


不用品タグをつけるイメージね

タンパク質には
分解屋であるプロテアソームが
近づいてきます。

- ユビキチン化されたタンパク質のユビキチン鎖を
プロテアソームが認識します。 - プロテアソームによりタンパク質はズタズタに分解されます。
- ユビキチンは放出され再利用されます。

ユビキチンによるタグ付けとプロテアソームによる分解を行うのが
ユビキチン-プロテアソームシステムです。

標的タンパク質分解誘導薬とは

標的タンパク質分解酵素誘導薬
を紹介します。

ところでTPDってどこがすごいの?

簡単にそこも紹介しときますね!
TPDの利点
そもそもTPDがもてはやされているか?というと、
これまでの低分子化合物の弱点を補えるからなんです。
これまでの低分子化合物を使った薬は、そのほとんどが
体の中で機能するタンパク質を阻害することで機能します。
その時タンパク質に空いている穴を足場にして、結合し
機能を阻害します。そして
結合した結果、機能する場所を塞ぎタンパク質の機能を奪います。
つまり、足場となる穴が、機能する場所の側にあって
初めて薬効を発揮します。
でもこれ、わかっているタンパク質の
2割くらいしか足場を持っていない
と言われています。

薬が作れない!!
こんなのとが起こっているのね!

理論上は全てのタンパク質に応用できるのがTPDなんですね!
キメラ化合物
かなり研究開発が進んでいるグループです。
冒頭説明した
標的タンパク質結合ドメインをリンカーで繋いだ
二機能性の低分子化合物
PROTACやSNIPERと名前のついた化合物もすでに登場しています。
PROTAC(proteolysis targeting chimera)
SNIPER(specific and nongenetic IAP-dependent protein eraser)
なんか消せそうな名前がついています。

関連:ベーリンガーインゲルハイムとダンディー大学、PROTAC創薬プログラムの成功を強調し、抗がん剤の開発に向けた提携を拡張
キメラ化合物タイプの構造
E3に結合するものと、標的とするタンパク質に結合するものをリンカーで結んでいます。
概念としては過去紹介した二重特異性抗体と同じです。

(二重特異性抗体を持つアムジェン社も開発を進めている様です)
キメラ化合物タイプの作用機序
キメラ化合物タイプの作用機序は
E3とタンパク質をくっつけることで
そのユビキチン化を促進します。
特定のタンパク質だけどんどん引っ張ってきて
E3に渡しますので特定のタンパク質だけがどんどんユビキチン化されて
プロテアソームで分解されていきます。

E3モジュレーター
E3モジュレーターと呼ばれるタイプも存在します。

レナリドミド(製品名レブラミド)という抗悪性腫瘍用剤です。
(作用機序の一部であって全てではありません)

レナリドミドはセレブロンへの結合を介して Ikaros 及び Aiolos のユビキ チン化を惹起し、それに続くプロテアソームによるこれらのタンパク質の分解を促進する。Ikaros 及び Aiolos は免疫細胞の発生・分化やホメオスタシスを制御する重要な転写因子であり、レナリド ミドによるこれら因子の分解促進が、T 細胞機能を調節することが知られているインターロイキン 2 (IL-2)及びその他のサイトカインの産生を増強する。したがって、レナリドミドの MM 細胞及び T 細胞に対する薬理作用の作用機序として、Ikaros 及び Aiolos の分解促進とそれによる細胞内濃度 の低下が考えられている。
Ikaros 及び Aiolosという転写因子 のユビキチン化を行います。
karos と Aiolos は免疫細胞の発生・分化、ホメオスタシスを制御する重要な転写因子…かんたんにいうと免疫系のブレーキなので、
karos と Aiolosを分解すると、サイトカインの産生が加速しT細胞を活性化されます。結果がん細胞を活性化したT細胞が攻撃します。
余談ですがサリドマイドと比べても
T 細胞に対する活性化作用は強く、 100–1000 倍と言われています。

レナリドミドに続けと現在研究が進められています。
DUB阻害薬
最後がDUB阻害薬です。
ちょっと毛色が違うので入れるか迷いましたが、
抗がん剤として期待されているので紹介いたします。
DUBはDeubiquitinase…カンタンにいうとユビキチン化を解除する酵素です。
せっかくタンパク質に付与したユビキチンが解除されますので
タンパクが分解されず機能しづづけます。
これが活性を異常に失ってしまうと
必要なタンパク質まで異常に分解されてしまいますし
異常に増えてしまうと、
全くタンパク質が分解されてなくなってしまいます。
特にDUBの高発現や異常な活性化が、
がんや神経疾患などを誘導することが明らかになっているため
現在はDUBを阻害することでタンパク質の分解を促進する
DUB阻害薬が開発されています。
あとがき
標的タンパク質分解誘導薬の解説いかがだったでしょうか?
ユビキチン-プロテアソームシステムを介した魅力的なテクノロジーですよね!
おそらく近い将来、臨床の場でもどんどん使われる様になるはずです。
それまでの繋ぎの内容になれていましたら幸いです。

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