これまでは時系列にそって出来事をまとめるために一つの記事に集約していましたが、
行政処分のプレスリリース並びに調査結果報告書はかなりの量かつ真理に迫る内容ですので
より掘り下げるため独立した記事を作成することで、
日医工の長期にわたる自主回収は結局何が原因だったのか?という疑問に迫っていきます。
なおこれまでの経緯は以下記事にまとめています。(どこよりも情報量が多い自信はあります。)
関連記事:日医工の自主回収のまとめと理由一覧表【自主回収が止まらない】
・行政処分と調査報告書の内容から日医工の長期にわたる自主回収の原因について紹介・考察しています。
・1年にわたりこの問題を追いかけてきた日医工系ブロガーの私が自主回収の原因の紹介・考察を行っています。
処分内容
まずはどんな処分が下されたのでしょうか?処分内容を確認してみます。
(1)医薬品製造業(富山第一工場)に対する処分
i. 対 象 名 称:日医工株式会社 富山第一工場 所在地:富山県滑川市下梅沢 205 番地の 1
範 囲:医薬品製造業(許可番号:16AZ000312)。ただし、次の業務を除く。
① 設備の改善、保守及び点検に係る業務
② 製造及び出荷に関連しない事務棟の使用
③ 製造設備を直接使用しない研究開発に係る業務
④ 苦情及び返品に係る業務
⑤ 出荷した製品の品質管理に係る業務
⑥ 製品、原料及び資材の保管管理に係る業務
⑦ 製造管理及び品質管理の改善に係る業務ii. 処 分 日 2021 年 3 月 3 日(水)
iii. 処分内容 医薬品製造業の業務の停止(32 日間) (2021 年 3 月 5 日(金)から 2021 年 4 月 5 日(月)まで)
チクチク!!噛み砕く!!
処分範囲は富山第一工場のみ
まず業務停止命令を受けたのは日医工全体ではありません。
その中の富山第一工場のみとなっています。
日医工は後発品最大手と言うこともあり全国に8つの工場を有しています。
- 富山第一工場 :主に経口剤を生産
- 富山第二工場 :主に散・顆粒剤包装を生産
- 愛知工場 : 主に液剤、注射剤、凍結乾燥製剤を生産
- 埼玉工場 :主に付加価値製剤、ゼリー、点眼を生産
- 山形工場 : 主に外用薬を生産
- 静岡工場 : 主に一般製剤、抗生剤の注射剤を生産
- 北海道工場 : 主に消毒剤、局方製剤を生産
- 岐阜工場 : 主に経口剤、注射剤を生産
つまり他の7工場は通常稼働をしています。
なので注射とか外用剤、顆粒なんかは業務停止命令の影響を受けないでしょう。
対象外の業務もあり
対象から除外されている業務も7つあります。
詳しくみて、行政は何を言いたいのかみていきます。
まずは前述ですが、除外されている業務を再確認します。
① 設備の改善、保守及び点検に係る業務
② 製造及び出荷に関連しない事務棟の使用
③ 製造設備を直接使用しない研究開発に係る業務
④ 苦情及び返品に係る業務
⑤ 出荷した製品の品質管理に係る業務
⑥ 製品、原料及び資材の保管管理に係る業務
⑦ 製造管理及び品質管理の改善に係る業務
ざっくりと意訳しますと
- 設備のメンテナンスや改善はOK
- 絶対やっちゃダメなのは製造&出荷関連の業務、なので製造&出荷に関連しない事務所は使ってもいい
- 製造設備に触れなければ研究開発に関わる業務はOK(つまりおそらく実験はだめ)
- 苦情返品はしっかりやれよ
- すでに出荷した製品の品質管理もしっかりやれよ
- 保管管理もしっかりやれよ
- 製造と品質管理の改善もやらせてやるからしっかりやれよ
つまり生産と出荷は絶対ダメだけど、保守点検業務と研究業務、清算等の事務はしっかりやれ…
これから行政の言いたいことを個人的に予想すると
『3/5-4/5の1ヶ月は製造、出荷はせずに体質改善に全力を注ぎなさい!!』
こう言っているようです。
これは考え方を変えるとペナルティと言うよりは
日医工のリソースを全力で体質改善に当てる1ヶ月間とすることで信頼回復のための助走としてくれと言っている様にも捉えられます。
処分理由は?結局原因はなに?
それでは直接の処分原因に迫っていきます。
今回は下記3点が医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法に触れたことが直接の原因です
① 当社が、当社の富山第一工場において、品質試験不適合品を製造販売承認書と異なる製造方法で適合品となるよう処理した。
② 当社が、当社の富山第一工場において、品質試験等における不適合の結果に ついて、適切な措置を実施しなかった。
③ 当社の富山第一工場の医薬品製造管理者が、医薬品の適切な製造管理及び品 質管理を行うよう管理監督しなかった。
これも意訳しますと
- エラー製品が出た時にマニュアル通りに作業して、正規品にする対応をしなかった。
- エラーの結果を受けて適切に対応しなかった
- 管理者が上記内容を管理しなかった
エラー品(規格外製品)自体とその結果の対応処理をちゃんとしなかった&マネージャー(医薬品製造管理者)が不正を黙認または承認していたってことですね。
具体的にどんな違反をしていたの?
同日に公開されている調査報告書を確認すると指摘されているのは下記2点です。
- 規格不適合結果(OOS )ロットの不適正な救済措置
- 安定性試験の不実施等
これもざっくり言うと
- エラー品をやっちゃいけない方法でリサイクルした
- 安定性試験を行っていなかった
不適切な救済処置の具体的事例
まずは不適切な救済措置を確認してみます。
具体的な事例も調査結果には記載されていました。
- OOS の管理に関する手順書に反して、初回試験結果(OOS) を棄却し、初回試験と同一サンプルを用いた再試験又は別 のサンプルを用いた試験(以下「再試験等」という。)の適合結果を採用して出荷した事例
- OOS ロットに対して、製造指図記録書に記載のない再加工処理を施した上で出荷試験を行い、規格適合結果を得て出荷した事例
- 承認規格には適合しているが、製品標準書において日医工 が独自に設定した社内規格に適合しなかった OOS ロット につき、当該社内規格に不適合であった場合に出荷することを認める手順等が製品標準書に定められていないにもかかわらず、出荷試験合格品として出荷した事例
- 出荷試験のうち定量試験に不適合となったカプセル剤のOOSロットにつき、ウェイトチェッカーを用いて良品選別を行ったのち、選別後の製造ロットにつき、定量試験/溶出試験を実施せず、選別前の定量試験の数値に重量補正による比例補正をかけた数値/選別前の溶出試験の数値を用いて規格適合品として出荷した事例
これも意訳すると
- マニュアル無視してもう一度試験したり、サンプル変えて試験して適合させて出荷した
- エラー品を再加工して試験して出荷した
- 社内規格には満たないが、国からの承認規格を満たしている製品をそのまま出荷した
- 量が足りてなかったり多すぎるカプセル剤を含むロットは重量で良さそうな奴をより分けて、
再度、試験をしないで、より分けた重さで補正してショートカットして適合させて出荷した。
国の承認を得ていない方法で医薬品を製造したなどとして、富山県は3日、ジェネリック(後発医薬品)大手「日医工」(富山市、東証1部上場)に対し、医薬品医療機器法に基づき、32日間の製造停止と24日間の販売停止命令を出した。同社は約10年前から、品質試験で不適合となった錠剤を砕いて製造し直すなどしていたという引用:「日医工」に業務停止命令 10年前から後発薬不正製造―富山
逸脱会議により不当な救済を組織として推進
処分理由の一つに“当社の富山第一工場の医薬品製造管理者が、医薬品の適切な製造管理及び品 質管理を行うよう管理監督しなかった。”と言うものがあると紹介しましたが、これを明確に裏付けるものも報告されています。
富山第一工場では、遅くとも 2011 年頃より、逸脱管理責任者が手順書に従い招集する 「逸脱会議」と称される会議において、出荷試験不適合(OOS)等の各種の逸脱の処理 が検討、実施されていた。当該不適正な救済措置は、当時の工場長/生産本部長の明示又は黙示の指示を受けて、 医薬品製造管理者兼逸脱管理責任者(当時)が、出荷試験において規格不適合となった ロットのうち、特に廃棄(ロットアウト)による影響が大きいものについて、ロットアウトを回避するために、逸脱会議の場において主導的に行っていたものであった。なお、いずれの措置も、出荷試験において承認規格不適合の製品を不適合のままに出荷 させるものではなく、承認規格に適合させて出荷させるためにGMPの手順に反する 不適正な処理を行ったものであった。
・2011年から逸脱会議と言う会議が行われていた。
・工場長/生産本部長の指示のもと医薬品製造管理者兼逸脱管理責任者が主導する会議。(組織ぐるみ)
・不適合がでたロットで廃棄になると経営的にダメージが大きいものをなんとかするための会議。
・なんとか基準を満たすことを目的としているが、方法は認められていないものを使っていた。
逸脱会議でも再加工処理は違反と認識
前述のリサイクルもとい再加工処理についても当然話し合われていますが、その罪がまた重く興味深いです。
再加工処理の認識は調査報告書に以下のように記載されています。
(再加工処理)については、逸脱会議でも GMP に違反する不正な処理であるという認識はあり、医薬品製造管理者(当時)は、GMP 違反であることは認識しながら、原薬や重要な添加剤の追加を行うような品質に大きく影響を与える再加工は行わないなど、「品質に問題が生じる再加工は行わない」という一定の許容ラインを自らの中で設けて、こうした再加工処理を進めていた。
GMP 違反であることは認識しながら、原薬や重要な添加剤の追加を行うような品質に大きく影響を与える再加工は行わないなど、「品質に問題が生じる再加工は行わない」という一定の許容ライン
不適切な救済処置の原因は人員不足
再加工した経緯の中には以下文言も確認できました。
2014 年から 2016 年頃にかけて、ジェネリック医薬品の需要増に伴い、富山第一工場に おける生産数量・生産品目数も急増したが、これに対応できる人員、設備が整っておら ず、製造部、品質管理部のいずれもひっ迫した製造スケジュール、試験スケジュールの 中でその業務に追われ、これに伴い OOS の発生件数も増加していった。こうした背景の下、特に 2014 年から 2016 年にかけて OOS の逸脱の発生件数、逸脱会議の開催頻度も増加し、これに伴い不適正な救済措置の実施の件数も増加していった。
ニーズが急増したけど人員、設備不足で逼迫したスケジュールを強いた結果、規格外品も多くなり救済措置を行った製品も増えたと記載されています。
人員&設備不足は恐らく多くの後発品会社で起こっている問題です。
人を増やすと言う業務負荷を考えた人員配置ができていないんですよね。
数ヶ月から1年くらいの間でしたら新卒採用ができず対応できないと言う言い訳もわかるのですが、2年あるわけですからね!
安定性試験の不実施の理由
そしてもう一つ違反である安定性試験の不実施にも人員不足が関連しています。
試験を実施しなかった理由については以下の記載があります。
富山第一工場では、遅くとも 2009 年頃の時点で、生産品目及び包装形態が多く試験数 に対して人的・物的設備が不足していたことにより、必要な試験が全ては実施できない 状態であったため、品質管理部においては、優先順位の高い試験をリスト化して、それ らについてのみ試験を実施するという実務運用が定着していた。そして、この優先順位 の設定において、上記の加速試験や長期保存試験は、出荷に必要とされる試験よりも劣後するものとして、試験実施計画から除外され、又は、計画書に記載されるものの実施 が後回しにされ、その結果として、2020年2月の時点で大量の安定性試験の実施が行われていないという状況となっていた。
人足りなくて優先順位が高いものしかできませんでした!!
少なくとも2009年から10年以上、優先順位が低い出荷に影響しない物として後回しにしていました。
ちなみに私は、2020/9/16の長期安定性試験逸脱回収の際に下記のように考察していました。
恐らくこれまで発表された回収は氷山の一角で、長期保存に影響を与える程度の軽微な製造変更が数多く眠っていて、長期安定性試験で明らかになったのではないのかなと、私見では考えています。この考え方が正しければ、これから長期安定性試験逸脱品が続出する可能性もあります。
しかしこの後、長期安定性試験逸脱はほとんど起こりませんでした。
私の考えは外れたわけです。
『おかしいなぁ…考えすぎだったか…外れちゃった。てペぺろ。逸脱ないことはいいことだしね』と思っていたんですが、違いました!!
そもそもやっていなかったんだから逸脱するわけがありません!!
私見:人と設備が足りない間接的原因
両方の違反に関連していたのが人員&設備不足です。
そして人を増員する機会があったはずなのにそれがなされていません。
増員できなかった理由はなんでしょう?
これは私見ですが、製品を安く売りすぎて人を雇う体力がなかったんじゃないか?と考えています。
2021年現在、後発品会社の製品は30〜70%を引いた薬価で売られていることが多いです。
それを30〜70%で売るわけです。
販売価格は20〜50円位になります。
後発品薬価が30円くらいの薬だと70%引くと1錠9円です。
こんな販売方法が現在現場では普通に行われています。
え?利益出るの???と感じることも珍しくはありません。
本当は利益出ないけど採用のために身を切って作っていたのでしょう…結果、採算を合わせるために禁断の手法であるリサイクルに手を染めてしまったのでしょう。
小林化工等も根っこは同じ原因じゃないかと思っています。
安売りしないと採用してもらえない後発品業界の構造的な問題点です。
長期間回収が続いた理由
- 不適正な救済措置があり、品質上の懸念が払拭できない製品ロット
- 再度の品質評価の結果、品質に係る懸念が払拭できない製品ロット
上記製品ロットが確認された場合、
都度回収したために約1年にわたる長期の時間がかかってしまった訳です。
あとがき(日医工の夜明け)
日医工によると調査&確認作業は現在全て終わっているとのことです。
つまり発表を信じるのならば、コレから当事件に関連した新たな自主回収が発生することはないと考えられます。
もちろんちゃんと体質改善と業務改善がなされていればの話ではありますが、コレからは長いトンネルを抜け夜明けを迎えるのではないでしょうか?というかそうであってくれ!!!
この事件を超え、また日医工が大手後発品会社として、
信頼される日を願って終わりにします。
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