え、関税って薬にもかかるの?
2アメリカのトランプ大統領が
「薬に関税をかける!」と宣言しました。
しかも最大で250%
という超ド級の数字です。

あれ?相互関税15%の中に包括されるんじゃないの?
と油断していた私…
あわてて調べてみると
トランプ氏は5日、CNBCとのインタビューで、「医薬品には当初、小幅な関税をかける。だが、1年から1年半の間に150%に引き上げ、最終的には250%にする。医薬品を自国で製造するようにしたいからだ」
As Lutnick explained on ABC News, the pharmaceutical tariffs will exist seperately of the reciprocal tariffs. :通商代表部(USTR)のルトニック氏がABCニュースで明言しました:「製薬分野に対する関税は、『相互関税』(とは別に存在する」



あぁちゃんと別にやるのね
…と絶望
そしてこの方針…
間違いなく日本の新薬事情にまで波及します…
今、日本は
医薬品関税によって
①薬事制度変える?
②アメリカに貢物をして最恵国から外してもらう?
③諦めてドラッグラグ・ロス加速を受け入れる?



こんな選択を迫られています



なんで関税が日本のドラッグラグ・ロスや薬事制度に波及するのよ?最恵国って何よ!意味わかんないわ!



普通そうだよね!
でも大丈夫!噛み砕いていきます!
順番に見ていきましょう!
「最恵国価格」って何?トランプ大統領の狙い
トランプ氏の主張はざっくり言うとこうです。



アメリカは他の国と比べて薬の値段が高すぎる!
世界で一番安い国と同じ価格にしてやる!
「世界で一番安い国の価格」をアメリカにも適用する。
これが最恵国価格
(Most-Favoured-Nation)です。
厳密には65歳以上の高齢者と、一定の障害や慢性疾患を持つ若年者が対象となるメディケアPart B/Dの価格がターゲットとなっています。
なので全体ではありませんが、それでも米国医薬品市場の約3割を占める巨大市場です。
そして、このルールを拒否する国には最大250%の関税で圧力をかけるというのが今回の戦略です。
米国では高齢化と医療費膨張が進み、民間保険の保険料も上昇。国民の不満が政治的圧力となり、製薬企業への強制的な値下げ要求が近年行われて来ました。



バイデン政権ではIRAが行われ、今回のトランプ政権では関税というわけです。
ちなみにいきなり言い始めたわけではなく2025年の早い段階から関税やMFNについて大統領令が発出されています。
IRAと合わせて気になった方は下記3記事を参照ください。






どうしてドラッグラグ・ロスが加速するの?
日本はドラッグラグ・ロスが日々加速しています。
理由は簡単で日本の医薬品市場としての魅力が相対的に劣って来ているから
さらにわかりやすく言うと薬価が安すぎるからです。



そしてこの安すぎる薬価とアメリカのMFN×関税政策が組み合わさると日本のドラッグラグ・ロスはさらに加速します。




日本の薬価がアメリカの薬価を下げる?
日本の新薬価格は非常に安いです。
具体的に紹介すると
G7のなかではわが国が最も薬価が低く、米国の薬価はわが国の 3.5 倍に達する。
その中でも特に安いのが、
革新的新薬が多いバイオ医薬品!


その差、
米国の8.4倍!
OECD平均の3倍超!
アメリカではバイオ医薬品は
日本の8倍以上の値段で売ってますし
先進国平均とも言えるOECD(米国除く)でも
日本の3倍以上の値段で売っています!



日本って世界5指の経済大国のはずなんですけどね!医薬品に関しては超絶ディスカウント大国なんですよね…
そしてこれは大事なポイントなのですが、高額バイオ医薬品や抗がん剤はメディケアへの依存度が非常に高く、金額ベースの依存度は製品によって差がありますが、売上の50〜70%がメディケア経由という例も珍しくありません。



がんや自己免疫疾患は高齢者罹患率が高いから自然とメディケア対象者が多くなるのよね!ということはMFN価格の影響を受けやすいのよ
もしバイオや抗がん剤の領域で
日本の薬価がMFNルールに反映されると…
- 日本の安い薬価
- 米国も日本と同じ安さに!
- 製薬会社は大幅に利益ダウン!!!
バイオに限っていうなら、
日本8国分のアメリカ市場が
一気に日本サイズまで縮小するわけです…
かと言って値下げ対応しなければ、
最大250%の関税が待っている…
これはヤバい!って
製薬会社はなりますよね?
製薬企業の経営会議で真っ先に検討されるのは、
「日本で売ると米国の利益が崩れるリスク」です。
生命産業とはいえど利益追求会社です。
会社はこう考えます…
それなら欧米で十二分に利益回収して特許切れギリギリになったタイミングで日本発売!
こうすれば値崩れリスクを防げるよね!場合によっては発売自体見送っていいかもね!
.



ドラッグラグ・ロスが加速するのは目に見えています。
構造はシンプルですが、影響は極めて甚大です。まとめるとこんな感じ
- アメリカの新ルール発動
日本の安価な薬価が米国に適用される可能性が出てくる。 - 製薬会社の採算計算
米国価格下落=収益の柱が崩れる。 - 関税という強制手段
しかしながら従わなければ最大250%の関税。 - 企業戦略の転換
少しでも米国価格を保つため日本発売を遅らせる、または発売しない。 - 患者の不利益
海外では日常的に使える薬が、日本では数年遅れか永遠に入らない。



この流れは制度上避けがたい連鎖であり、一度始まれば簡単には止められないと思われます。
MFN価格を拒否して関税分を薬価に上乗せすればいいじゃない!
「MFN価格なんて飲めない。だったら関税分を薬価に上乗せしてしまえばいいじゃないか」
製薬企業側から見れば、そんな考え方も一瞬よぎるかもしれません。実際、短期的には関税分の価格上乗せは起きそうです。
4月段階の試算だと
米国が輸入医薬品に25%の関税を課した場合、米国での医薬品のコストは年間約510億ドル増えるとした。関税引き上げ分が価格に転嫁された場合、医薬品価格は最大12.9%上昇する可能性がある
こうあります。短期的な価格上昇は織り込み済みなのかもしれません。
それにしても
4月の資産は25%の場合
これが最大税率の250%の場合5100億ドル
USD = 148 JPYとすると約 75.5 兆円



とんでもない価格ね…
でもそんなことしたらメディケアの財政を直撃します。そしてメティケア対象者=米国の高齢者=有権者
そしてトランプは高齢者支持が強い共和党です。有権者の怒りを大統領が放っておくわけがありません。



段階的に関税率を上げていくのは
関税を上げていくうちに出てくる
従わない製薬会社を締め上げよう!という魂胆でしょう。



わかっているよな?
こんな無言の圧力を感じてしまいます。
日本はどう対応すべきか(私見)
私見ですが、日本が取れる手は大きく3つあると考えています。
- 外交カードを切って最恵国(MFN)から日本を除外する
- 薬価制度を見直し、高薬価がつく構造に変える
- ドラッグラグ・ロスを受け入れる
外交カードを切ってMFNから日本を除外する
米国のMFN参照国リストから日本を外してもらうため、通商・防衛・技術など他分野で譲歩を行う交渉です。
成功すれば薬価制度を変えずに波及リスクを遮断できますが、政治的コストは非常に高く、譲歩内容次第では国内反発を招く可能性もあります。



薬価を下げたい米国側のデメリットが非常に大きいので、この代償がどれほど大きくなるか想像もつきません。実現可能性は低そうです。
薬価制度を見直し、高薬価がつく構造に変える
MFNから外してもらうのは難しそう…となると次の一手は薬価を国際的に低く見られないよう、制度そのものを変える方法です。
こちらは日本のみで完結する話ですので、MFN参照国除外よりは当然やりやすいです。
考えられる対応としては
- 再算定ルールの緩和で急落を防ぐ
- 原価算定で薬価をつける際の原価率緩和
- 費用対効果評価制度の緩和
- 希少疾患・小児薬など参照除外枠の拡大



これらをやれば新薬の薬価が高く保たれ、MFN参照されても問題がなくなります。
ただし、日本政府としては「薬価を下げたくない」という意向は強いはずです。
先にあげた再算定や原価算定の原価率参照、費用対効果評価
これらは全て近年官僚たちがが薬価を下げるために努力した成果です。



努力の成果は簡単には手放したくないでしょう。



仮にここで攻めるならば摩訶不思議な薬価制度をどのように弄って対応するのか、正直興味が尽きません….



交渉のために莫大な貢物を用意する?
近年作り上げた薬価制度を壊すのか?
え ら べぇ



現在こんな選択を日本は迫られています…
ドラッグラグ・ロスを受け入れる
極論ですが、大統領に突きつけられた選択を選べない!制度や価格を動かせない!
こんな場合、「海外先行→日本は後回し」という現実を受け入れる選択肢も考えられます。
当然、国民への治療機会損失が増えるため医療リスクは高いです。
ですが、医療財政の安定や既存患者への継続治療確保にはつながる可能性もあります。そして、変化を伴わないので日本の有権者に説明する必要がありません。



ドラッグラグ・ロスが加速しても、興味ない方も多いでしょうし、政治的コストは一番低いのはこの選択肢です。
政治的コストが一番低いので、野党がここに気づいて与党に訴えかけ動かさないと、
将来的に
「海外で治る病気が日本では治らない」
という最悪の結末を現実にします。



どのルートに進んでも日本は厳しいわね…
まとめ
今回のトランプ政権の関税+MFNコンボは、日本の薬価制度にとって避けて通れない衝撃です。
表面的には「米国の高すぎる薬価を下げる」という国内向け政策ですが、その裏では日本の低薬価が米国市場に波及する構造的リスクが浮き彫りになりました。
日本の薬価はG7最低水準、特にバイオ医薬品は米国の1/8という“世界的ディスカウント”状態。
もしMFNに日本価格が反映されれば、米国メディケアの収益が一気に圧縮され、製薬企業は日本上市を遅らせるか見送る方向に舵を切ります。
これがドラッグラグ・ロス加速のメカニズムです。
短期的な価格転嫁(関税分を上乗せ)も選択肢には見えますが、メディケア財政を直撃し、トランプ支持層=高齢者の反発を招くため、政治的には極めて危うい。
むしろ段階的関税引き上げは、「従わない製薬会社を締め上げる」圧力カードとしての色合いが濃いと感じます。
では日本はどう動くか?私見では3択です。
- 外交カードでMFN参照国から日本を外す(ただし譲歩コスト大、実現性低)
- 薬価制度を見直し、高薬価がつく構造に変える(再算定緩和、参照除外枠拡大など)
- ドラッグラグ・ロスを受け入れる(財政は守れるが医療後進国化リスク)
時間が経てば経つほど交渉力は落ち、制度変更の余地も狭まります。
関税発動とMFN適用は、患者、企業、そして国の医療政策を同時に揺さぶる“タイムリミット付きの選択”です。
早い段階で、どのカードを切るのか覚悟を決める時が来ています。



これから数ヶ月の日本の対応に要注目です。