みなさんこんにちは
製薬業界のはさまに生きるチクチクです!

こちらの記事では多大なる反響ありがとうございました!


トランプ大統領の医薬品産業に関する発言と大統領令まとめてみた! https://t.co/2TOU7qWPlk
— チクチク@製薬ブログ (@mrnetinfo) April 30, 2025
まとめてみてよかったなーと思います。報道だと全体を理解できてなかったのですが、個人的に勉強になりました。そして大統領の印象が少し変わりました!
GW溶かして書き上げた長文です。拡散🙇
ただ、
ちょっと調べたりないなー
と思ったことがありまして…
それがピルペナルティの悪影響
だっておかしくないですか?
製薬会社は悪の組織で
健康を人質に儲けているから
叩いても構わない…
お金を吐き出す「うちでの小槌🔨」
最近そんな流れじゃないですか…特に日本
薬価抑えたい政府が製薬会社に
ポジティブな改革するなんて…
どれだけ
ヤバい悪影響
あったんだ?
そんなふうに思っちゃったんですよね…



国にDVされすぎてオカシクなってるわね…
なので追加調査を行いました!
今回の記事では
前回記事の振り返りとして
- IRA薬価導入制度の経緯
- 低分子薬と生物学的製剤の交渉猶予期間の違い
新規情報として
- 新薬開発パイプラインに与えている影響
- 製薬企業・研究団体・政府関係者の反応



これらを最新のデータや
レポートに基づきまとめました!



結論言うとね?
これはヤベェわw
導入の経緯とピル・ペナルティについて


まずは振り返りパートです。
もう十分知っているよ!と言う方は読み飛ばしてください!
IRA薬価交渉制度の導入経緯
米国では長年、Medicareによる医薬品価格の直接交渉が禁止されてきました。
しかし2022年8月、バイデン政権下で成立したインフレ抑制法(IRA)により、この状況が大きく転換しました。
気候変動対策投資の財源確保や医療費削減策の一環として、Medicareが一部の高価格医薬品について製薬企業と価格交渉(実質的には価格設定)を行う権限を得ることに成功しました。


IRAは巨額の財政削減効果を見込み、議会予算局(CBO)はこの薬価改革全体で初年度から10年間に連邦財政赤字を2,370億ドル削減すると試算しました。
特に薬価交渉による削減額は約960億ドルと見積もられています。


交渉の対象となるのは、Medicare Part DやPart Bでカバーされる単一ソースのブランド薬または生物製剤(後発品・バイオシミラーが存在しないもの)のうち、Medicare支出額が上位のものです 。
交渉対象薬は段階的に拡大される計画で、
- 2026年にPart D薬から10品目
- 2027年にPart D薬15品目
- 2028年にPart D/B薬15品目
- 2029年以降は毎年20品目
上記が追加選定されます 。対象候補はMedicare支出額トップ50の薬剤リストから選ばれます 。


ただし以下のような除外条件も設定されています
- ジェネリック医薬品やバイオシミラーが発売済みの薬剤
- 承認から一定年数以内の薬剤(ここがピルペナルティのコアです)
- 「小規模バイオ企業の医薬品」(2029年まで一時的除外):その企業のMedicare支出占有率が低い薬剤
- 年間Medicare支出額が特定未満の薬剤(2021年実績で2億ドル未満)
- オーファンドラッグ(希少疾患薬)で適応が単一のもの
- 血漿分画製剤全般
この中で特に重要なのが、承認からの年数要件です。低分子医薬品と生物学的製剤とで交渉対象外となる猶予期間が異なり、低分子薬は承認後9年、生物製剤は承認後13年までは価格交渉の対象にならないと定められました。



これは事実上、生物製剤に対し低分子薬より4年長い価格自由期間を与える設計です。
低分子薬と生物製剤の交渉猶予期間の違い
上述のように、IRAでは低分子薬はFDA承認から9年経過後、生物学的製剤は13年経過後にMedicare交渉の対象となります 。承認から対象選定リスト発表までの必要期間で言えば低分子薬7年、生物製剤11年であり、その約2年後に実際の交渉価格適用が始まる計算です 。
なぜ9年と13年の差が設けられたのか明確な公式説明はありませんが、専門家の指摘として「政策立案者が先端的な生物医薬品を促進したかった可能性」や「既存のFDAの独占期間(低分子5年、生物製剤12年)を踏襲した結果」といった推測があります。


一般に生物製剤は開発期間が長く複雑であるため、従来も長めの独占期間が与えられてきた経緯があります 。一方、低分子薬は製造コストが比較的低く、経口投与が可能で患者受容性も高いことから広く使われる反面、ジェネリック医薬品による競合が生物薬より早く発生しやすい特徴があります。
そのため政策的に低分子薬は早めに価格交渉対象にしても患者アクセスに支障が少ないと判断された可能性があります。
しかし製薬業界から見ると、この「9年 vs 13年」の差異は低分子薬への投資インセンティブを著しく損なうもの…
業界団体PhRMA(米国製薬研究製造業者協会)など批判者はこの状況を皮肉を込めて
ピル・ペナルティ(pill penalty)と呼んでいます 。
すなわち「錠剤(pill)」である低分子薬だけが4年早く価格統制の対象になる罰を受けている、という意味合いです。


従来は低分子薬も生物薬も平均して約14年程度は特許や独占権で高薬価を維持できていたとされます。ところがIRA施行後は、低分子薬は承認後9年で価格統制が始まる(=自由価格期間が短縮される)のに対し、生物薬は依然13年近く市場価格を維持できます 。
製薬ビジネスモデル上、新薬発売後10年目以降にようやく売上がピークに達するケースも多く、「医薬品の上市から13年間の累積売上のうち約50%は10~13年目に生み出される」との分析もあります。
低分子薬は最も売上の大きい後半4年間を失うことになり、この「ペナルティ」が収益性に与えるインパクトは大きいと指摘されています 。


ピル・ペナルティが及ぼした悪影響


ここから本番です!
ショッキングなデータが続きますw
低分子医薬品の研究開発・商業化への影響
IRA導入後、その「ピル・ペナルティ」が実際に低分子医薬品の研究開発投資にマイナスの影響を及ぼし始めていることを示すデータや事例が報告されています。
投資額の変化
まず客観的な投資・開発動向の情報から見てみます。
近年のベンチャー投資や企業のパイプライン分析によると、低分子薬分野で以下のような変化が起きています。
簡単に言うと投資額が
めっちゃ減ってます🤮
数字の大小はあれ低分子薬への資金流入が大幅に縮小していることは間違いなさそうです🤮
特に注目するべきが
米議会予算局(CBO)のような
中立機関の分析でも、
「長期的に見れば新薬数の減少につながる」
と言うこと自体は認めています。



誰が調査しても投資が減ること自体は間違いない!
製薬会社の行動変化
次に、製薬企業の具体的な行動変化を調べました!
大手から中小まで、多くの企業がIRA成立後にパイプライン戦略の見直しを迫られています。
- Pfizer – 2024年、自社のがん領域パイプラインにおいて低分子薬の開発を縮小し、生物製剤に重点を移す方針を発表しました 。実際、2023年には大型買収で抗体医薬やADCに強みを持つシージェン社を取得しIRAの影響でバイオ分野を強化する戦略転換だと報じられています。
- Vir Biotechnology – 2023年、自社の低分子薬パイプライン(先天性免疫経路を標的とするもの)を全て中止
この中には将来のB型肝炎治療薬の可能性があったプログラムも… - Genentech, Rocheグループ – (IRAが改善されなければ)低分子の抗がん剤について、適応症を拡大し大きな患者集団向けの承認が得られるまで上市を敢えて遅らせる検討をしていると報じられました。つまり早期に狭い適応で承認・発売してしまうとIRAの9年タイマーが動き出すため、できるだけ発売を遅らせ価値を高めてから承認を取ろうという戦略です。
- Eli Lilly – IRA成立直後の2022年11月、早期開発中だった低分子の血液がん治療薬の開発中止を決めました。「IRA下で低分子抗がん剤の価値が損なわれる懸念」が直接の理由と報じられています。
- Alkermes – 2022年11月、自社のオンコロジー部門をスピンオフ(分社化)し、そちらを生物製剤中心の開発会社として再編する決定をしました。背景には「生物製剤ならIRA交渉適用まで長く収益を上げられる」という判断があり、分社によってそのメリットを享受しようとしたものです。
- Protagonist Therapeutics – 2023年末の決算で、低分子の潰瘍性大腸炎治療薬の開発中止を発表しました 。同社は理由として明確にIRAへの言及はしていませんが、市場では低分子消化器疾患薬のコマーシャルリスク増大が背景にあると見られています。
- Novartis – 自社の強みである低分子創薬分野がIRAの薬価抑制策で「意図せぬ大きな打撃」を受ける恐れがあると警告しています。同社米国部門のプレジデントは「議員らは高度に見える生物製剤を優遇したつもりだろうが、我々の注力する低分子プログラムが危機に晒されている」と述べ、米政府に制度の見直しを訴えました。
参考情報




個人的に気になったのは
GenentechとAlkermesです。
AlkermesのCEOは決算説明会で



It’s been reckoned that the difference between 13 and 9 years is about 50 percent of the total cash-on-cash from a revenue perspective. So if you can interrogate a biological target with a biologic now, you have to do that compared to a small molecule.
13年と9年の差は、収益面で見た場合のキャッシュ・オン・キャッシュでおよそ50%に相当すると試算されています。したがって、もし現在、ターゲットを生物学的製剤で攻略できるのであれば、低分子化合物で行うよりも生物学的製剤を選択すべきだということになります。
参考情報:https://strike.market/stocks/ALKS/earnings-call-transcripts/182155
要はターゲット同じなら
生物学的製剤を選ぶだけで
収益は倍になる
って明言してるんですよね。
これでは生物学的製剤が選ばれますよね!
そしてGenetechの早期に狭い適応で承認・発売してしまうとIRAの9年タイマーが動き出すため、できるだけ発売を遅らせ価値を高めてから承認を取ろうという戦略


これは思いつかなかった…
そうだよね!当然だよね!
収益最大化するなら
患者数の少ない疾患はデータだけ取って
承認取らずに様子見したほうがいい
ってなっちゃうよね。



人道的にどうなの?



でもそれが資本主義戦略だから…
ご覧いただいた通り製薬企業は大なり小なり「低分子よりも生物製剤を優先する」方向に戦略転換しつつあることが分かります 。そしてよく見るとがんや高齢者疾患などMedicare世代が主要ターゲットとなる領域の低分子薬で、開発中止・延期やプロジェクト縮小が相次いでいます 。要は儲からないことがはっきりとわかったからですね!
逆に、患者層が若年でMedicare依存度の低い治療領域(例:20~50代で発症する多発性硬化症やパーキンソン病等)では、低分子創薬の投資が大きく落ち込んでいないとの指摘もあるようです。
つまりは
高齢者対象の低分子薬が危機!
またそういった薬では追加適応がなされなくなる可能性も指摘されていて
価格交渉がはじまる7年目の段階で、薬価があと2年で落ちることがわかると
企業はコストをかけて追加試験を行うインセンティブが低下します。



そのお金を別の薬の投資した方が、より良い投資になるからね!



結果、別の適応で使えたかもしれない薬が消えるわけね…
あれ?思ったより悪いぞ?ピル・ペナルティ…
余談:低分子の定義って?
低分子っていうと分子量の小さい医薬品って思っちゃいますよね?
間違ってないのですがIRAにおいて低分子医薬品に入るかどうかは
FDA での承認経路で決まります。
承認経路 | IRA 上の区分 |
---|---|
NDA(FD&C 法 §505) — CDER が所管 | drug product=small‑molecule |
BLA(PHS 法 §351) — CBER が所管 | biological product=biologic |
NDAで承認されれば問答無用で低分子です。
んでここに含まれるのが
一般的な低分子の他に
- siRNA(RNA干渉役)
- アンチセンス
- アプタマー
- 40 アミノ酸未満の化学合成ペプチド




といった最新モダリティ品も含まれるんですよね…
最近承認された有名なものでも
医薬品名(製品名) | 成分の種類 | 分子の特徴 |
---|---|---|
セマグルチド(Ozempic®/Wegovy®/Rybelsus®) | ペプチド(GLP-1作動薬) | 約31アミノ酸 |
チルゼパチド(Mounjaro®/Zepbound®) | ペプチド(GIP/GLP-1デュアル) | 39アミノ酸 |
パチシラン(Onpattro®) | siRNA:RNA干渉薬 | 21塩基RNA(LNP包埋) |
インクリシラン(Leqvio®) | siRNA:RNA干渉薬 | 22塩基RNA(脂質担体) |
ヌシネルセン(Spinraza®) | アンチセンス核酸 | 18塩基ASO |
と重要&売れそうな薬ばかり…



これらが対象となるのは製薬会社としては痛いわね…
業界・政府関係者の反応と今後の展開


上述の状況を受け、業界団体や有識者、議会関係者から様々な反応が出ています。
製薬業界団体や投資家の声
米国製薬団体PhRMAは前述の通り「ピル・ペナルティ」という表現で強く懸念を表明し、「低分子薬への投資が冷え込めば将来の飲み薬による治療オプションが減少し、患者にも不利益が及ぶ」と主張しています。
またバイオ産業団体BIOも「IRAの規定は低分子R&Dを萎縮させ、医療イノベーションを危うくする」と警鐘を鳴らしています 。
ベンチャーキャピタルの間でも「収益見通しが悪化する低分子プロジェクトは敬遠され始めている」との声があり 、業界関係者は総じて制度変更を求める方向で一致しています。







これだけ悪影響あったら当然よね
政策立案者・政府関係者の反応
連邦議会では超党派での改善法案も登場しました。
例えば2023年には下院で「EPIC法案(Ensuring Pathways for Innovative Cures Act)」が提出され、低分子薬にも生物学的製剤と同じ13年の価格交渉猶予を与えることを提案しています 。
この法案は共和党のグレッグ・マーフィー議員と民主党のドン・デイビス議員、共和党のブレット・ガスリー議員らが共同提案したもので、製薬業界の強い支持を受けています。



これを受けてトランプ政権の大統領令ではピル・ペナルティ解消施策を議会と協力して進めるよう指示したわけね!



ただ当然ながらバイデン政権の支持議員は「製薬業界が主張するほど開発意欲減退は深刻ではない」と主張していますしMedicareの財政持続性や高齢者の薬剤費負担軽減の観点から、多少の収益圧迫はやむを得ないとの声もあります。
大統領令の成り行きは慎重に見守りたいですね!
あとがき


ピル・ペナルティの悪影響…
どうだったでしょうか?
個人的には正直想像の数倍ヤバい状況でした!
間違いなく新薬開発に悪影響与える政策だったわけですね…
しかしながら薬価抑制による国民医療費の節減効果も看過できない事実であり、イノベーションへの悪影響を最小化しつつ医療費抑制を実現する方策が模索されている状態です。
一時期、日本の国会でもよく聞きましたね…



薬価制度は、イノベーションの推進と国民皆保険の持続可能性確保の両立を図る観点が重要
日本の薬価制度はセリフの元、
ボコボコにされ続けているわけですが…
果たしてアメリカの未来やいかに…

