アストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチンAZD1222とは【バキスゼブリア】

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アストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチン

アストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチン

2020/07/22イギリスの大手製薬会社アストラゼネカがワクチンに関するプレスリリースを発効しました。

それによると新型コロナウイルスのワクチン開発の第I / II相単盲検無作為化比較試験が成功したとのこと。おーワクチン成功したか!!と思っていたのですが、正直どんなワクチンかわかってないやんけ!!と焦って勉強してきました。

※当ワクチンは現在バキスゼブリアという名前で商品化されました。

 
今回はAZD1222についてどんなワクチンなのか学んでいきます。

AZD1222

AZD1222

アストラゼネカ社のプレスリリースにおけるAZD1222の解説は以下の通りです。

AZD1222について
AZD1222は、オックスフォード大学とそのスピンアウト企業Vaccitechによって共同で発明されました。このワクチンは、複製できないように処理をした弱毒化されたチンパンジー由来の風邪のアデノウイルスに、SARS-CoV-2ウイルススパイクタンパク質の遺伝物質を含んだものです。ワクチン接種後、表面スパイクタンパク質が産生され、免疫系を刺激して、後で体が感染した場合にSARS-CoV-2ウイルスを攻撃します。

新型コロナウイルスワクチンAZD1222、第I / II相試験の被験者全員で強固な免疫反応を示す

最初の一文はオックスフォードで開発されました!!というものです。非常に簡単な文章です。

問題はその後、『このワクチンは、複製できないように処理をした弱毒化されたチンパンジー由来の風邪のアデノウイルスに、SARS-CoV-2ウイルススパイクタンパク質の遺伝物質を含んだものです。』

ここ!!!文章長くてもともと興味が薄い方は脱落しそうです。そこでこの部分がわかるように解説します。

アデノウイルスとコロナウイルスの確認

まずはコロナウイルスの再確認とアデノウイルスの紹介です。コロナウイルスは1本鎖RNAウイルス。アデノウイルスは正二十面構造をしたDNAウイルスです。個人的に人工物感を感じるウイルスで好きなウイルスです。

それぞれスパイクという部分を周囲に持っています。スパイクは宿主細胞に吸着・侵入したり、宿主の免疫機構から逃れたりするための部分です。重要パーツです。

新型コロナウイルスは、スパイクをヒトの細胞表面のアンジオテンシン変換酵素2に結合して侵入するため、スパイクをターゲットに抗体を作れば感染を防げると考えられています。

アデノウイルスとコロナウイルスの紹介

ウイルスの種類もわかったところで、今一度先ほどの文章を再度確認します。

複製できないように処理され弱毒化したチンパンジー由来のアデノウイルスにSARS-CoV-2ウイルススパイクタンパク質の遺伝物質を含んだもの

つまり増殖できないように改造したアデノウイルスに新型コロナのスパイクを作る遺伝子を入れたと書いてあります。

 

 
アデノウイルスを魔改造するわけね。
 

AZD1222の構造

 
AZD1222の作り方

改造ウイルスAZD1222のイメージはこんな感じです。アデノウイルスの体にコロナウイルスのRNAを入れてあります。さらに増殖機能を破壊されていますので、この改造されたアデノウイルスは人に感染しても増殖できません。

新型コロナのスパイクを作るだけのRNAと機能を失った自己のDNAを感染させるだけの存在になります。

 
RNAを運ぶだけの存在になるので、このように改造されたウイルスをベクター(運び屋)ウイルスと呼びます。
 
 
続いて魔改造ウイルスが感染するとどうなるか紹介するよ。

感染と免疫反応

改造アデノウイルス(AZD1222)感染にした細胞のイメージ

上の絵は改造アデノウイルス(AZD1222)感染にした細胞のイメージです。

細胞にくっつくことに成功した改造アデノウイルス(AZD1222)はコロナウイルスのスパイクを産生するRNAを細胞内に送り込みます。

そうするとRNAは細胞内でスパイクだけを作ります。どんどん作っていくと作ったスパイクがそのうち異物として免疫細胞に発見されます。

免疫の獲得

上の図の赤い細胞が免疫細胞です。青いものはスパイクです。スパイクに刺激された免疫細胞は増殖しながら抗体産生を行います。

これを複数回繰り返すことでスパイクに対する抗体を作る免疫細胞と抗体自体を増やすことができます。最終的に新型コロナウイルスに感染しない免疫システムが得られます。

こうなると本当のウイルスが進入しても即座に免疫細胞が出動しスパイクに対する抗体を生産します。抗体によってウイルスに攻撃が行えるため感染が防げると考えられています。

またアデノウイルスを使ったベクターは、染色体には組み込まれない(人間の遺伝子自体は変更しない)ため、一過性の発現にしか利用できません。

感染してRNAを導入した細胞が死ぬとスパイクを作る機能が失われます。つまり時間経過とともにスパイクを作る機能が失われます。しかし浮広範囲のさまざまな細胞に非常に効率良く感染するため、短期的には沢山のスパイクを産生し免疫細胞を刺激することができ、免疫獲得自体はしやすいと言われています。

 
遺伝子を編集するのは一時的であり、最終的に導入したスパイク遺伝子が人体から消える点は大きなメリットです。
 
一生良くわからない遺伝子と暮らすのは嫌よね。

第I / II相単盲検無作為化比較試験

第I / II相単盲検無作為化比較試験

続いて今回発表された臨床試験です。COV001という試験ですね。

デザインはこんな感じです。同様のプレスリリースから引用します。

COV001は、英国の5つの治験施設において健康な成人1,077人を対象としてCOVID-19ワクチン候補AZD1222の安全性、免疫原性、および有効性を確認する第I / II相単盲検無作為化比較試験です。

18~55歳の治験参加者は、AZD1222を5×1010ウイルス粒子の用量で単回または2回接種する群と、髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)を単接種する群に割り付けられました。

新型コロナウイルスワクチンAZD1222、第I / II相試験の被験者全員で強固な免疫反応を示す

1077人を対象にAZD1222と髄膜炎菌結合型ワクチンを比較する単盲検試験を行ったモノですね。P2にして1000人越えの試験は多いですね。流石外資です!!

AZD1222群はワクチンの複数回投与によって抗体量が爆発的に増えるブースター効果が認められるか確認するため、単回投与と2回投与に分けられているのでしょう。

結果と有害事象も引用します。

AZD1222の単回接種を受けた95%の被験者は、接種1か月後にSARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体が4倍に増加したことが確認されました。すべての被験者において、T細胞反応が誘発され、14日目までにピークに達し、接種の2か月後まで維持されました。

SARS-CoV-2に対する中和活性(MNA80法で評価)は、ワクチンの単回接種から1か月後には91%の被験者に、2回目の接種を受けた被験者の100%に見られました。1回または2回の接種を受けた被験者に見られる中和抗体のレベルは、回復期のCOVID-19患者に見られるものと同様の範囲でした。中和抗体法全体で強い相関が観察されました。

初期の安全性に関する結果としては、AZD1222を接種されたグループで一時的な注射部位の痛みと圧痛、軽度から中程度の頭痛、疲労、悪寒、発熱、倦怠感、筋肉痛を含む、一時的な局所反応と全身性反応という一般的な反応であり、以前の治験や他のアデノウイルスベクターワクチンと同様であることが確認されました。

AZD1222で重篤な有害事象は報告されておらず、鎮痛剤であるパラセタモールの予防投与によりこれらの反応は軽減され、2回目接種後に反応が起きる頻度は低くなりました。

新型コロナウイルスワクチンAZD1222、第I / II相試験の被験者全員で強固な免疫反応を示す

結果を箇条書きにすると以下5点でしょうか。

  • ちゃんとT細胞刺激して免疫システム働かせてB細胞が抗体作ってるよ
  • ブースター効果も確認されて2回うてば100%の中和活性になるよ
  • 回復期のCOVID-19患者と同等の抗体量確認したよ
  • 副作用は対照群より多いよ。でもこれまでのアデノウイルスベクターワクチンと同じだし鎮痛薬の予防投与で軽減できるよ。
  • 重篤な有害事象は確認できないよ

主要評価項目は達成されており、P3試験に進むには十二分なデータですね。ちなみにパラセタモールはアセトアミノフェンのことです。

一時的な局所反応と全身性反応はアデノウイルスベクターがもともと持っている課題でして、どうしようもない側面があります。

また通常P2試験ですと症例数が少ないので重篤な有害事象が確認できないと言っても油断はできないという評価を下します。しかし今回はAZD1222群だけで500人超えていますからね。少しは信憑性がある感じでしょうか?

それでもワクチンには低頻度で重篤な副反応を増やした過去の事例もあるのでやっぱり油断はしない方が良いようには思います。

この事例は過去記事:MMRワクチン薬害問題を振り返るに記載していますのでお時間許せばご確認ください。低頻度で重篤な副反応が発生し発見が遅れた様が書かれています。

懸念点

懸念点

最後に懸念点を紹介します。

このタイプのワクチンには構造上の重要な問題があります。それは何度も何度も使えないというものです。

このタイプのワクチンは投与するとベクターであるアデノウイルスへの抗体も獲得してしまいます。そのため、抗体獲得後の再投与時にはアデノウイルス自体の抗体が邪魔してRNAを届けられなくなってしまいます。

時間経過で免疫記憶を失ってしまうような病気の場合、通常再投与することで免疫を再度活性化できますが、このタイプのワクチンはそれができません。次回どうしても使う場合は他のタイプのベクターを使わないワクチンに移行する必要があります。

新型コロナウイルスへの抗体がどれくらい長持ちするかはわかりません。もしかすると 10年以内に抗体が減ってしまうかもしれません。その時にこのワクチンは再投与することができません。

新しいウイルスである新型コロナウイルスの抗体がどれくらい持つかというのはこれからの研究で明らかになっていくでしょう。

スゴイ短時間で抗体がきれてしまい再投与ができず、訳ただずのワクチンになってしまう可能性も未だ残っています。

あとがき

あとがき

いかがでしたでしょうか、AZD1222は期待のワクチンです。

前述の懸念点の他に日本にワクチンが入ってくるのか?非医療者が打つのはいつになるのか?接種順番はどうなるのか?等々心配なことはつきませんが、良い結果になることを祈りましょう。

もちろんPⅢ試験の結果次第では承認されない可能性も十二分にあります。こればかりは神のみぞ知る世界なので祈るしかありません。

 
当記事が参考になれば幸いです

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