製薬業界にとって悪名高い
市場拡大再算定&特例拡大再算定ですが、
- なんで悪名高いの?
- そもそもどんなシステムだっけ?
- なんで特例なの?
- どんな影響が出ているの?
こんな疑問ありませんか?
本記事ではここの
功罪に焦点をあてながら
噛み砕いて解説していきます!
功:市場拡大再算定と特例拡大再算定とは?
これから
- 市場拡大再算定
- 特例拡大再算定
- 用法用量変化再算定
- 効能変化再算定
上記4つの再算定制度を見ていきます!
これらに共通するのは
申告より売れすぎると安くなる
という点です。
それぞれ
対象と要件をチェックします
市場拡大再算定の要件
①原価計算方式
年間販売額150億円超
かつ予測年間販売額の2倍以上、
または年間販売額100億円超
かつ予測年間販売額の10倍以上
※薬価承認から10年後の
薬価改定を受けていない薬に限る
②類似薬効比較方式で
薬価算定された薬のうち、
適応拡大などによって
市場実態が大きく変わった医薬品で、
年間販売額150億円超かつ
予測年間販売額の2倍以上
※薬価承認から10年後の
薬価改定を受けていない薬に限る
①のケースでは最大25%薬価ダウン
②のケースでは最大15%薬価ダウン
&薬効類似医薬品も引き下げ
日本の年間医薬品市場は
約10兆円(2021年)なので
全体の0.1〜0.15%を超える売上を出し、
さらに当初の申告より多い売上を出した
発売10年未満の新薬…
これについては薬価を
過大評価されていると判断し
薬価を下げますよ!
さらに
②に関しては市場の構造も変化しているので、
類薬も下げますよ!
という内容が市場拡大再算定です!
特例拡大再算定の要件
元々は市場拡大再算定の
最大25%のダウンだっだんですが
2016年ごろメチャクチャ売れていた
ハーボニ&ソバルディ対策として
2016年4月の薬価改定で導入されたのが
悪名高い特例拡大再算定です!
市場拡大再算定の中の特例!なんです。
元々は市場拡大再算定→特例拡大再算定の順番で
制度が誕生しています!
余談ですが2016年の薬価改定では
ハーボニーソバルディは
31.7%の薬価ダウン
7000億円/9兆円=
7.7%の市場が消し飛びました。
ちなみに特例拡大再算定の
対象はこんな感じです。
【特例拡大再算定の要件】
①年間販売額1500億円超&
予測年間販売額の1.3倍以上
②年間販売額1000億-1500億円&
予測年間販売額の1.5倍以上
コチラは市場の1〜1.5%を超えた&申告より
1.3〜1.5倍売れすぎた薬という基準です。
①の場合は薬価を最大50%引き下げ
②の場合は薬価を最大25%引き下げ…
年末大セールレベルです…
2016年4月導入ってのは
後々ポイントになるので
覚えておいてください!
そしてさらに、これにも類似品認定がありまして…
特例拡大再算定対象品の
薬理作用類似薬であることに加えて
以下3要件の一つを満たすと
『特例再算定類似品』と認定され
共づれにされます。
- 薬価収載の際の
比較薬が当該特例拡大再算定対象品である場合 - 薬価収載の際の
比較薬が『特例拡大再算定類似品』である場合 - 特例拡大再算定対象品又は特例拡大再算定類似品と
組成が同一の場合
※特例拡大再算定対象品と
市場における競合性が乏しい場合は除く
これって結構エグくて、
簡単にいうと薬理作用同じ薬の
カテゴリー全部一片に対象にするよ!
ってことなんですよね…特に②がエグい…
これによって直接比較してなくても
カテゴリー全体を包括できるようにされています…
そしてさらに2018年4月からは
適応タイミングがそれまでの
2年に1回(薬価改定のタイミング)から
年4回に頻度がアップしています…
これによって甚大なダメージを受けているのが
「オプジーボ」(小野薬品工業)や
「キイトルーダ」(MSD)でして
オプジーボ】
17年2月:50%:特例拡大再算定
18年4月:23.8%:用法用量変化再算定他
18年11月:37.5%:用法用量変化再算定
21年8月:11.5%:テセントリク類似品
(市場拡大再算定)
100mg1バイアル
729,849円→155,072円(2022年1月)
(発売時より△78.75%)
【キイトルーダ】
18年4月:11.2%:オプジーボ類似品
(用法用量変化再算定)
20年2月:17.5%:特例拡大再算定
20年4月:20.9%:特例拡大再算定
21年8月:11.5%:テセントリク類似品
(市場拡大再算定)
100mg1バイアル
410,541円→214,498円(2022年1月)
(発売時より△47.75%)
とボコボコのダウンを受けています。
発売からわずか数年で
約80-50%薬価が落ちています(2022年1月時点)
型落ちなどがある電化製品ならわかりますが、
第一線で使われている商品で需要もあるものが
発売数年で50%引きに
なることがあるでしょうか?
ちょっと私には思いつきません…
用法用量変化再算と効能変化再算定
薬価再算定には同じように想定より売れすぎると
薬価を下げるシステムがいくつか存在します。
用法用量変化再算定
すでに登場しましたが、
用法用量変化再算というシステムも存在します。
これも考え方は市場拡大再算定に似通っていまして
【用法要領変化再算定の対象と要件】
・効能又は効果に係る用法及び用量に
変更があった場合
・市場規模が 100 億円超&市場規模が
年間販売額から10倍以上
この条件を満たす場合、再算定を受けます!
この場合は、通常の改定後薬価を
1日用量の変化の比率で薬価が調整されます。
効能変化再算定
【効能変化再算定の対象と要件】
・主たる効能・効果の変更がなされた医薬品 かつ
・ 変更後の主たる効能・効果に係る
類似薬がある医薬品
こっちは適応に変更があった医薬品の薬価を
類似作用薬に近づくよう引き下げるルールです。
②の類似薬があるという既定のとおり
元々は売れすぎ等は関係がなく
さらには類似薬がない場合は
適応されなかったのですが、
20年の薬価改定で
効能変化再算定の特例が新設されまして、
売り上げ項目が追加になります。
- 治療上の位置づけが類似するもの(参照薬)がある
- 参照薬の1日薬価が10倍になる場合
- 参照薬の年間販売薬が150億円以上
10倍&100億&150億円ってのは
制度上のポイントですね。
これらの項目を満たす場合に薬価が
新たな市場に併せて再計算されます。
ここまで紹介した
売れすぎると薬価を下げるシステムは
その効果により日本国に
数千億、数兆レベルの医療経済メリット
をもたらしています。
とくに特例再算定の効果は
非常に売れている薬の金額を
25~50%下げますので絶大です!
これが功の部分です。
チクチク思い出小話:ギリアド
ハーボニーの当時の勢いって本当に凄くて
2015年9月1日のハーボニーの発売まで
日本市場ではギリアドって
ほとんど名前も知られていなかったんですよね。
そんなギリアドが販売するハーボニーとソバルディの売上が
7ヶ月後の2016年3月(2015年度末)では
ハーボニー2693億円
ソバルディ1508億円
と国内1&2フィニッシュを飾ったわけです!
これには度肝を抜かれました…
プラビックスとかネキシウムとか
ARB戦争末期のミカルディスとかオルメテックが鎬を削る中
あまり聞いたことがない会社の
ぽっと出の薬がNo. 1ですからね!
本当に驚きました。
ちなみに本当にいい薬で
HCV由来の肝炎は2015年を
境に急減しています!
当時のAZの最年少女性所長が
ギリアドに転職していましたが
給料いくらもらってたんですかね…
とんでもない給与で
引き抜かれていそうです。
今思えば
バイオベンチャードリームですね…
市場拡大再算定等の薬価計算方法
尚、余談ですが薬価自体は計算式が存在しまして
機械的に決定します。
こんなのあるんだ!
くらいで大丈夫です!
市場拡大再算定対象品及び市場拡大再算定類似品に係る計算方法
市場拡大再算定の要件について
薬価改定前の薬価×{(0.9)logX/log2 +α}
ただし、原価計算方式により算定され、年間販売額の合計額が 100 億円を超え 150
億円以下、かつ基準年間販売額の 10 倍以上となる場合
薬価改定前の薬価×{(0.9)logX/log10 +α}
(注)上記算式による算定値が、原価計算方式により薬価を算定した対象品及びその類似
品については薬価改定前の薬価の 75/100 に相当する額を下回る場合、原価計算方式
以外の方式により薬価を算定した対象品及びその類似品については薬価改定前の薬価
の 85/100 を下回る場合には、当該額とする。
特例拡大再算定対象品及び特例拡大再算定類似品に係る計算方法
(1)年間販売額の合計額が 1,000 億円を超え 1,500 億円以下、かつ基準年間販売額の
1.5 倍以上となる場合
薬価改定前の薬価×{(0.9)logX/log1.5 +α}
(2)年間販売額の合計額が 1,500 億円を超え、かつ基準年間販売額の 1.3 倍以上とな
る場合
薬価改定前の薬価×{(0.9)logX/log1.3 +α}
(注)上記算式による算定値が、(1)については薬価改定前の薬価の 75/100 に相当する
額を下回る場合、(2)については薬価改定前の薬価の 50/100 に相当する額を下回る
場合には、当該額とする。
X(市場規模拡大率)=(市場拡大再算定対象品又は特例拡大再算定対象品
の同一組成既収載品群の薬価改定前の薬価を基に計算した年間販売額の合計額 )
/当該同一組成既収載品群の基準年間販売額
罪:日本市場の魅力半減と企業体力の低下
ここまで制度の解説と
日本医療経済に与えた好影響を紹介してきました。
ここからは罪の部分…
デメリットについて考えます。
日本市場の魅力低下
非常に大きな日本国への
医療経済メリットをもたらす再算定システムですが
企業の立場からすると
たまったもんではありません。
薬価=企業の利益を削って
医療経済に還元しているのですから
当然ですよね
複数回のキイトルーダの薬価ダウンに
耐えかねたMSDは
明確な問題提起も行っています。
MSDの笹林幹生執行役員(マーケット・アクセス部門統括兼流通担当)は会見で、市場拡大再算定の問題点として、
▽適応拡大が再算定を引き起こすリスクとなり得るため、適応拡大への投資判断を困難にしている
▽販売額が予想をどれだけ上回ったかで薬価の引き下げ率が決まる仕組みとなっており、適応拡大の医療上の価値は考慮されない
▽類似品も連座的に薬価が引き下げられる
▽売り上げの大きい主力製品が標的になりやすく、引き下げ率も大きいため、経営に甚大な影響がある
まぁ色々書かれているんですが、
特に日本国民にとって大事なのは
- 投資判断を困難にしている
- 経営に甚大な影響がある
この2ポイントではないでしょうか?
つまり
日本市場って
投資するの難しいよね!
経営リスクだよね!
魅力減ったよね!
と外資系製薬メーカーに
判断されているわけです
え?やばくない?
次項では
『影響現れてない?』
という話をしていきます!
日本国内未承認薬が増えている
外資の目から見て投資判断が難しくなったせいか
新薬が海外から入って来にくくなっています。
もともとあった市場拡大再算定に加えて
2016年からの特例拡大再算定により、
売上の長期予測と
投資判断が難しくなったことも影響し
現在、日本では国内未承認薬が増加しています。
俗に言うラグロス問題です!
国内未承認薬の数は特例拡大再算定が導入された
2016年の117品目を底として
2020年には176品目まで増加しています。
59品目の増加です!
割合でも16%も増加しています。
もちろん特例再算定だけが
原因ではありませんが
日本の魅力が欠けた結果、
外国製の新薬が入ってきにくい
環境になり始めています。
開発能力の低下:異常な薬価ダウンが研究費を削る…
そして影響は外資だけではなく
内資メーカーの開発力低下にも関係します。。
薬価の過剰なダウンは
メーカーの開発費を明確に削っています。
ざっくりとですが、オプジーボを題材に
開発費のダウン分を計算して見ましょう!
オプジーボは発売時から
既に78.75% の薬価ダウンを受けています。
もし薬価ダウンがなければ
2020年のオプジーボの売上は
988億円ですので
単純計算で4584億円…
2回の薬価改定を8%で受けたと仮定しても
3880億円の売り上げになります。
ざっくり3000億円のうりあげUPです。
メーカーの研究開発費は
国内10社の平均が売上の2割程度ですので
600億円/年が消えています。
(2021年まで2000〜3000億円は消えたでしょう…)
2017年をピークに小野薬品の
研究開発費も頭打ちになってます!
年間600億円の研究開発費が
消えていれば当然よね!
ワープスピード作戦のお金は?
年間600億円の
インパクトがどれくらいなのか
非製薬業むけの方向けに
米国ワープスピード作戦を題材に確認してみます。
「ワープスピード作戦」は
アメリカが行ったワクチン開発事業です。
1 兆超を23種類のワクチン開発に投資しました。
引用:How can we make publicly funded corona vaccines accessible to all?-somo
製造費用を除いて見てみると
大体1〜2ビリオンドル(10〜20億ドル)程度を
開発費に投資していますね。
日本円にすると2021年1月の為替レートで
1150億〜2300億円ですね。
新薬の発売には年間、
約10億ドル必要と言われていますので、
その1倍から2倍を丸々投資しているわけです。
年間600億円の研究開発費が
オプジーボ単体で消えているとは
紹介しましたが、
ご覧のように0.5剤分くらいの
薬の投資金額になります。
2年に1回新薬が出てくる計算です!
これを医療経済のもと捨てたわけです!
この機会損失が罪になります!
さらに
これは他の医薬品でも
毎年のように起こっています!
直近でも市場拡大再算定の特例がタケキャブに適応
されることが決定されています!
他の薬価ダウンシステムと合わせると
年間1150億〜2300億円という
数字は簡単に超えることは
想像できますよね!
ちなみに国産メーカーが
ワクチンを作れない!
とよく批判されることを受けて
最近、岸田首相は以下のようにコメントしています。
産学官の実用化研究を集中的に支援し、
世界トップレベルの研究開発拠点の形成
などに取り組みワクチン開発生産体制の強化を進める
こんなことをしなくても
異常な薬価引き下げがなければ、
国産ワクチンを作る体力が
国産メーカーにもあったかもね。
バイオシミラーの開発がされなくなっている
そして最後がバイオシミラーの
国内開発がされなくなっています…
ちょっとわかりにくいんですが、
バイオシミラーって通常の後発品と違って
生物学的同等性試験だけでなく
先行バイオ医薬品と品質,安全性,有効性において
同等性/同質性を示すことが必要なんです…
つまり
多くの臨床試験がいる=お金がかかる
なので、発売した際の売上予測がとっても大事!!
ですが、シミラーを出したい売れている
バイオ医薬品の薬価が不明瞭になっているんですね!
再算定制度のせいで!!
日本の後発品メーカーは
将来の薬価予測ができず
開発リスクを取れない状況…
この間に台頭してきているのが中国で
世界大2位の市場を
中国企業がつくる状況になっています。
日本は指をくわえてみてるだけです…
唯一やる気のあった
日医工も後発品問題で身動きが取れません
中国のバイオシミラー市場は2029年までに25倍に成長し、米国に次ぐ世界2位の規模になる見通しだ。
推進力となるのは中国国内のメーカーで、多国籍企業はほとんど恩恵を受けられない。
医療経済にメリットを与えている制度ではありますが、
この様に実は日本の将来の経済に
ダメージを与えているという罪の側面もあります
まとめ
市場拡大再算定、特例再算定などの再算定基準と
国内未承認薬の増加や研究開発費の減少
について紹介いたしました。
制度の概要と功罪について、
なんとなくご理解いただけたでしょうか?
個人的にはこの数年で
未承認薬が急増しているのが
なんとも恐ろしく感じます…
市場拡大再算定の特例…
なんとかなりませんかねぇ